2013/4/ 5

映画「ホーリー・モーターズ」/レオス・カラックス監督来日 13年ぶり長編「人生を、1日に凝縮した作品」

「自分はいったい何者か。オスカーは探し続けている」

 

――なぜ13年も長編を撮らなかったのですか。次回作までまた13年待たなければならない?

 

作りたい時、作りたい方法で作れるわけではない。「ポンヌフの恋人」の後、次を撮るのが難しくなりました。「ポーラX」(99)の大失敗が輪をかけましたね。人生のさまざまな出来事に妨げられることもある。映画作りには、健康と何人かの共犯者、お金も必要です。すべてが同時にそろうとは限りません。80年代に3本撮った。今までに10本は撮りたかったけど、そうはならなかった。次の長編がいつ撮れるかは分からりません。

 

――監督がオスカーだとして、変わるとしたらと何になりたいですか?

 

私はすでに多くの役を演じてきました。映画に興味を持つはるか前、13歳で自分の名を変えました。映画の勉強も現場も経験せずに撮り始めて。どこかインチキしている気分で、外に向かってハッタリを言ったり、うそをつかなければならならなかった。偽りの自分を演じたわけですが、前に進み、自分を守るためでもあったのです。

 

恋愛など私生活でもいろいろな役を演じています。演じることは好き。映画か恋愛かは分からないが、本当の自分が見つかる場所があるはずです。さまざまな役割を演じること。自分が何者か知る努力すること。2つの間を人は誰でもさまよい続けていると思います。

 

――登場人物が明らかに演技している場面と、していないように見える場面がありましたね。

 

現実と演技の境界があいまいな作品です。オスカーが父親として娘に話しかける場面を見る時、観る人は彼がかつらをかぶっていることを忘れ、「これが本当のオスカーなのではないか」と思う可能性もあります。しかし、オスカーが何者かは誰にも分からない。なぜなら彼は「自分が何者かを探す人物」だから。「彼は誰なのか」と問うべきではないのです。

 

作り手の私もオスカーの正体は分かりません。短時間で構想、撮影し、ラッシュも見なかったから。編集段階で初めてこの映画を目にしました。その段階で「一定の方向性を与えなければ」と思い、初めて観客が頭に浮かんだね。

 

最初の20分は、難解に感じるのではないか。オスカーが誰か分からない状態で、観客は耐えられるか。役が移り変わる人物を、観客は見続けてくれるか──いろいろ考えた。しかし、セリーヌとオスカーの間に起きること、登場するさまざまな年齢の女性とオスカーの出会いを見れば、この映画が1つの長い人生を、1日に凝縮していることを、分かってもらえるのではないだろうか。


「ホーリー・モーターズ」(2012年、フランス・ドイツ)
監督:レオス・カラックス
出演:ドニ・ラヴァン、エディット・スコブ、エヴァ・メンデス、カイリー・ミノーグ、ミシェル・ピコリ
2013年4月6日、渋谷ユーロスペース、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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