2013/2/26

映画「草原の椅子」/疑似家族がおりなす「大人の寓話」

小池栄子の壊れっぷりがすごい

成島監督は「八日目の蝉」に続き、再び血のつながらない擬似家族を描いた。育児放棄、リストラなどによる現代社会の閉塞状況に、中年男の友情と恋愛、青春物語を同居させる。物語は遠間と富樫の友情に始まり、遠間から貴志子への淡い恋模様を経て、本題となる圭輔のエピソードにつながっていく。

育児放棄する両親の身勝手さには驚かされる。特に母役の小池栄子の壊れっぷりがすごい。精神がぼろぼろの様子で現れたかと思えば、きれいに着飾って平静を装ったりもする。圭輔を預けた遠間が風疹にかかったと知ると、身重の自分と胎児を心配してパニック状態に。ヒステリックに暴れて遠間を傷付ける。自らの役割を十分理解した小池。短い出演ながら圧倒的な破壊力だ。

運命に導かれるように出会った4人は、施設に入ることが決まった圭輔との思い出を作りに、桃源郷と呼ばれるパキスタンのフンザへ旅立つ。

「八日目の蝉」に比べると、大人の寓話といったところ。現実的で説得力ある日本でのパートから一転。クライマックスとなるパキスタン部分が抽象的な夢物語になり、全体のバランスが悪くなった感は否めない。しかし、山田洋次監督作品で知られる撮影監督・長沼六男がとらえた雄大なフンザの風景は一見の価値がある。


「草原の椅子」(2013年、日本)
監督:成島出
出演:佐藤浩市、西村雅彦、吉瀬美智子、小池栄子、AKIRA
2013年2月23日、全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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