2013/2/22

映画「3.11後を生きる」/被災者の現状に迫る 中田秀夫監督の震災ドキュメンタリー 

1996年に「女優霊」でデビューし、1998年に「リング」で大ブレイク。「リング2」(1999)、「仄(ほの)暗い水の底から」(02)を発表し、ホラー映画のスペシャリストの印象がある中田秀夫監督。実は「ジョセフ・ロージー 四つの名を持つ男」(1998)、「サディスティック&マゾヒスティック」(00)など、ドキュメンタリー映画の秀作も多い。

「3.11後を生きる」は、そんな"ドキュメンタリスト"中田秀夫の力が遺憾なく発揮された作品だ。東日本大震災の半年後、被災地で監督が被災者にインタビューする。津波の恐怖、遺族への思い、今後の人生......。メディアが伝えてこなかった事実が次々と語られていく。

家族全員を亡くした漁師「海を恨むつもりはない」

母親を失くした50歳の女性。黒い水にのみ込まれて、ぐるぐると体が回転し意識が薄れた。助からないと思った。ふと光が見えた。生きていることが分かった。母親は死んでいた。遺体を安置する余裕はない。物のように片付けた。そんな自分を人でなしだと思った。

定時制高校の教師は、体育教師の妻を失った。海の近くのプールで練習していた生徒たちを助けようとして波にのまれた。行方不明のまま、遺体は上がっていない。

家族5人全員を亡くした漁師。波は50数メートルにも達した。防波堤は役立たなかった。個人の家が建たないよう、土地を自治体が買い上げて公園などにすべきだと思う。生活のためタラ漁を再開した。海を恨むつもりはない。

クラブ経営の70歳の女性。犠牲になった娘と孫たちの遺影を眺め、悲嘆にくれる毎日だった。しかし、悲しみを忘れるため店の再開を決意する。

父親を失った僧侶。波にのまれ必死にもがくうち、偶然、太鼓の破片をつかんで、浮かび上がり一命を取り止める。彼はクラブ経営の女性に語る。生まれ変わりはない。誰も死んだ人たちの代わりにはなれない。悲しみは続く。だから四十九日、一周忌......と続くのだと。

さまざまな人々の口から語られる言葉の数々。被災者一人ひとりと真摯に向き合い、信頼関係を築くことで初めて引き出し得たものに違いない。演出も技巧も封印し、ただ事実だけを記録したドキュメンタリー映画の真骨頂。3.11の悲劇は原発事故だけではないことを、改めて見る者の心に刻み込む一作だ。


「3.11後を生きる」(2012年、日本)
監督:中田秀夫
2013年2月23日、オーディトリウム渋谷ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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