2012/7/14

過剰な演出なしミュージカル「ONCE」の説得力―翻って我がテレビは煽りナレーションとテロップ乱用

人生はそんなにドラマティックなものでもない。そんな日常生活を丁寧に描いていく。それが今年トニー賞で8部門を制したミュージカル「ONCE」だ。2007年に公開されアカデミー歌曲賞をはじめ数々の賞を受賞し、当時話題になった音楽映画「ONCE ダブリンの街角で」をミュージカル化したものである。

もどかしくなるほど控えめなラブストーリー

殺人事件が起きるわけでも、大恋愛に落ちるわけでもない。映画を見た時は、淡々とすすんでいく物語にウトウトしてしまったこともあり、どうドラマティックに舞台で見せるのかが気になっていた。でも感動の涙。ラストシーン、目の前で繰り広げられる俳優の熱演に思わず涙が出てしまった。映画ではふ~んってぐらいにしか思わなかったのに。

ストーリーは、オンボロギターをかきならすしがないストリートミュージシャンの男とチェコ移民の女を巡って繰り広げられる。男の才能に気付いた女が、少々強引に一緒にセッションをしたり、レコード会社に売り込もうとアシストしていく。それを疎ましく思っていた男も、次第に惹かれていくのだが、女には幼い子供とチェコに残してきた夫がいた。お互い淡い恋心を抱きながらも、決め手となるひと押しができない。なんとか金を工面してデモ音源をレコーディング。そしてでき上がったものを手に、男はふるさとを後にする。

たしかにラブストーリー。だけど見ているほうが「もう少し積極的になれば」「あ~、イライラする」ともどかしい気持ちにさせられるほど、劇的な展開が待っているわけではない。けれど、そこで熱愛を繰り広げられたら、よくあるハリウッドものの感動ラブストーリーになっていたかもしれない。控えめな物語。抑えた表現がストーリーに現実味を帯びさせているのだが、見事にミュージカルでもその手法が功を奏していた。

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

[続き]観客に想像力働かさせて引き込んでいく演出の巧み
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