韓国からフランスへ養子に出された幼き日を、デビュー作「冬の小鳥」で描いて注目を集めたウニー・ルコント監督。長編2作目の「めぐりあう日」では、やはり自身の経験をもとに、母の愛と真実に揺れる女性を描く。
夫と8歳の息子ノエ(エリエス・アギス)と暮らすエリザ(セリーヌ・サレット)は、産みの親を知らずに育った。パリで理学療法士として働く傍ら、自らの出生にまつわる真実を探し求め、息子と北部の港町ダンケルクへ移る。
エリザは実母を探すため専門機関に依頼するも、匿名で出産した女性を保護する法律に阻まれる。自分が生まれた産院、出産に立ち会った助産師を訪ねても、実母に近付けない。エリザは母を探し当てるまで、パリに戻る気はなかった。
なぜ匿名で産んだのか
一方、ノエもまた苦しんでいた。転校先の学校では、アラブ系の容姿や内気な性格が原因で嫌がらせを受ける。そんなノエを、給食や掃除を担当する中年女性アネット(アンヌ・ブノワ)がかばう。やがてアネットは、エリザが働く診療所に通い始める。治療で肌を触れ合わせるにつれ、二人は見えないつながりを感じ始めていく──。
自分はなぜ生まれてきたのか。エリザでなくても、誰もが一度は考えることかもしれない。エリザには家族も仕事もあるが、親の不在で心が満たされない。なぜ自分を手放したのか。なぜ匿名で産んだのか。怒りともつかぬ問いに答えてくれる人はいない。親の愛情を信じられない孤独。
しかし、皮肉にも自分の出生の秘密を追うあまり、エリザは夫や息子との間に生じた溝を見落としてしまう。今を生きる目の前の家族を軽視したかのように。
原題はフランスの作家アンドレ・ブルトンの著書の一文を引いている。
「あなたが狂おしいほどに愛されることを、私は願っている」
ルコント監督が大切にしている言葉だ。祝福されない人生などない。すべての人生を肯定するように、観る者の心に優しく響き渡る。
「めぐりあう日」(2015年、フランス)
監督:ウニー・ルコント
出演:セリーヌ・サレット、アンヌ・ブノワ、ルイ=ド・ドゥ・ランクザン、フランソワーズ・ルブラン、エリエス・アギス
2016年7月30日(土)、岩波ホールほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。