2016/2/ 9

映画「キャロル」/女性同士の禁断の愛 全身から高貴なエロスを発散するブランシェットに注目

ひそかに写真家を夢見ながら、高級百貨店のおもちゃ売り場で働いているテレーズ(ルーニー・マーラ)。恋人からは結婚を迫られているが、どうも乗り気になれない。そんな彼女の前に現れたのが、裕福な人妻のキャロル(ケイト・ブランシェット)だった。娘のクリスマスプレゼントを買いに訪れたキャロルを見るなり、テレーズは彼女の虜(とりこ)となってしまう。

美しい金髪、真っ赤なマニキュア、毛皮のコート、そして何とも優雅な身のこなし。若く貧しいテレーズとは対極の、ゴージャスなオーラを放つキャロル。売り場に置き忘れていった手袋を自宅に郵送したのを機に、2人は急接近。ただならぬ関係へと突き進む――。

社会に押しつぶされそうになりながらも、決して愛をあきらめない

何不自由ない暮らしを送っているように見えるキャロルだが、実は夫と別居中。ぽっかり空いた心の隙間を埋める相手が欲しかった。それでテレーズを選んだか。おとなしく控えめなテレーズを、積極的で奔放なキャロルがリードしていく。最初は恋愛しようなどとは思っていなかっただろうテレーズ。だが、キャロルに誘われるまま、吸い込まれるように、禁断の世界に踏み込んでいく。

それぞれ異性の夫や恋人がいる。なのに同性の相手にのめり込む。理解しがたい心理、行動かもしれない。だが、目と目が合ってひかれ合う、恋の原理に性別は無関係とでもいうように、トッド・ヘインズ監督は2人の女のラブストーリーを、背景などの説明は一切抜きでつづっていく。

キャロル役のブランシェットが、全身から高貴なエロスを発散し、テレーズ役のマーラは、純な恋心を燃え上がらせる。実力派2人が申し分のない演技を見せ、女同士の恋物語にリアリティーを与えている。

1950年代初頭のニューヨークが舞台。同性愛はタブーである。男同士、女同士で愛し合えば、厳しい制裁を受けた。だがこの映画でキャロルやテレーズは罪人や敗者として描かれてはいない。社会に押しつぶされそうになりながらも、決して愛をあきらめない。逃げない。2人の姿は、自らゲイであることを公言するヘインズ監督の生き方にも重なるように思われる。

「エデンより彼方に」(02)同様、50年代の風景を再現した映像がムードたっぷり。モーテル、私立探偵、盗聴など、時代を映すアイテムの描き方もうまい。


「キャロル」(2015年、米国)

監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラ、サラ・ポールソン、カイル・チャンドラー、ジェイク・レイシー
2015年2月11日(木)、TOHOシネマズみゆき座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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