2015/6/26

映画「きみはいい子」/虐待、ネグレクト、自閉症、いじめ... 問題を抱えた人はこうやって癒されていく

新米の小学校教師、岡野(高良健吾)。娘を虐待する母親、雅美(尾野真千子)。一人暮らしの高齢女性、あきこ(喜多道枝)。三人を軸に三つのエピソードをまとめた作品だ。オムニバス映画ではなく、独立した話を細かく分断し、交互に見せていく。

岡野はいかにも「今時」の若者。大した苦労を知らずに育ってきたのだろう。生徒の性格や家庭環境がばらばらのクラスを、どうコントロールしていいか分からない。授業に集中できず騒ぐ生徒や、クレームの電話をかけてくる保護者に右往左往する毎日。しかし、放課後いつも一人ぼっちで校庭にいる生徒とかかわったことで、現状打開の糸口を見つけていく。

脚本と編集の技が冴えている

雅美は夫が海外に単身赴任し、娘と二人暮らし。ちょっとしたことでいら立ち、娘に暴力を振るってしまう。誰にも言えない心の傷を負っていて、それが虐待につながっているようだ。ママ友の一人である陽子(池脇千鶴)は、雅美とは対照的なキャラクター。子どもが何をしようと、慌てず騒がず、いつも温かい眼差しでわが子を見守っている。自分にはないものを持っている陽子に雅美は惹かれ、親しくなっていく。そして、ある日、陽子の思いがけない告白と行動が、雅美の心の固い殻を打ち破る。

一人暮らしのあきこは、認知症を患い誰もまともに接してくれない。唯一挨拶を交わすのは、自閉症の小学生、弘也だった。家の前を通るたびに「こんにちは、さようなら」。そんな弘也が鍵をなくしてパニックを起こす。あきこは弘也を自宅に招き入れる。やがて弘也を迎えにきたのは、以前あきこが万引きをしたスーパーの店員、和美(富田靖子)だった――。

虐待、ネグレクト(育児放棄)、自閉症、いじめ、学校に理不尽な要求を繰り返しぶつけるモンスターペアレント、認知症......。さまざまな問題を抱えた人々が、他人と触れ合うことで心の傷を癒していく。傷ついた人間を癒すことができるのは、人間だけ。気づいて、近づいて、触って、抱きしめることが何より大切なのだ。そんなシンプルなメッセージが、子役を含む俳優たちの自然な演技を通して、見る者の心に響いてくる。

一つのエピソードの一場面から、別のエピソードの一場面へ。切り替えのタイミングが絶妙だ。流れを止めることなく、スムーズに場面転換していくのが心地よい。脚本と編集の技が冴えている。

前作「そこのみにて光輝く」(14)で日本映画の最前線に躍り出た呉美保監督が、坪田譲治文学賞受賞の原作を映画化。作家としての可能性をさらに広げた。


「きみはいい子」(2015年、日本)

監督:呉美保
出演:高良健吾、尾野真千子、池脇千鶴、喜多道枝、高橋和也、富田靖子、黒川芽以、内田慈
2015年6月27日(土)、 テアトル新宿ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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