(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
労働者階級や移民など、社会的弱者を描き続けてきた英国の名匠ケン・ローチ監督。前作「ジミー、野を駆ける伝説」(14)を最後に引退表明したが、79歳になって「どうしても伝えたい物語がある」と復帰。「わたしは、ダニエル・ブレイク」を撮り上げ、カンヌ国際映画祭でパルムドール(最高賞)を受賞した。「麦の穂をゆらす風」(06)に続く2度目の快挙である。
自分は食べずに子どもたちに与え続ける
59歳の大工ダニエル(デイブ・ジョーンズ)は最愛の妻に先立たれ、心臓発作で医師に働くことを止められた。国の手当て支給のためマニュアル通りの問診をする医療スタッフ。四角四面なやり取りにいら立つダニエル。矛盾だらけの福祉制度と問題点が浮かび上がる。
(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
審査で「就労は可能、手当て支給は中止」と判断されたダニエル。手当てを受けるには数々の試練を乗り越えなければならなかった。受付窓口に電話をかければ保留で長く待たされ、出たと思えば「鑑定人の連絡を待て」と一方的な回答。職業安定所へ行けば「パソコンで申請しろ」と言われるが、使い方が分からない。何度も通ったある日、職安でシングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)、彼女の子ども2人に出会う。同じ立場同士、友情と家族のような絆が芽生えていく──。
初老で失業したダニエルと、貧しい母親のケイティ。世の中の仕組みは社会的弱者からすれば矛盾だらけだ。職安は仕事や手続きを紹介はするが、余計な手助けは一切しない。本人任せだ。ダニエルは求職者手当てを得るため、一定回数の面接を受けなければならない。ダニエルを見ながら行政への不信感が生まれ、福祉の仕組みにあきれてしまう。
貧しさに苦しむケイティは、食べ物は自分は口にせず子どもたちに与え続ける。無償で食品が配給されるフードバンクで、空腹に耐えられず、その場で食べてしまい泣き崩れる。その後、スーパーで万引きしたことを機に知り合った警備員に紹介され、いかがわしい仕事に手を出してしまう。
(C)Sixteen Tyne Limited, Why Not Productions, Wild Bunch, Les Films du Fleuve,British Broadcasting Corporation, France 2 Cinéma and The British Film Institute 2016
働けなくなった労働者、貧しい人たちがぶつかる福祉の矛盾。監督は皮肉を込めて観客に疑問を投げかける。監督の反骨精神、力強いメッセージを感じる作品だ。
「わたしは、ダニエル・ブレイク」(2016年、英・仏・ベルギー)
監督:ケン・ローチ
出演:デイブ・ジョーンズ、ヘイリー・スクワイアーズ、ディラン・フィリップ・マキアナン、ブリアナ・シャン、ケイト・ラッター
2017年3月18日(土)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。