映画「ハロルドが笑う その日まで」/IKEAにすべてを奪われた男の復讐劇
青と黄色の「IKEA(イケア)」の文字。スウェーデン大手家具チェーンの巨大なロゴを、老いた男が見つめている。「イケアにすべてを奪われた」。追い詰められた男の不器用な復讐が始まった──。
ノルウェー南西部の町、オサネ。小さな家具店を営むハロルド・ルンデ(ビョルン・スンクェスト)は、昔気質の家具職人だ。妻マルニィ(グレテ・セリウス)と静かに暮らしていたが、ある日を境に生活は急変した。
イケアが町にやって来たのだ。なんと「北欧最大店舗」をハロルドの店のすぐ隣にオープン。ハロルドは店を閉めざるを得なくなり、ショックからか記憶が不安定になった妻は、やがて息を引き取ってしまう。
そもそも人はどう家具を選ぶのか
愛する人も生き甲斐も失ったハロルドは、人気のない夜の店舗で灯油をまき、火をつけた。燃えさかる炎越しに見えるイケアの黄色いロゴ。次の瞬間、ハロルドはすべてを奪った男を思い出す。イケアの創業者、イングヴァル・カンプラード(ビヨルン・グラナート)を。
「カンプラードを誘拐する」。唐突に思いついたハロルドは、疎遠だった一人息子のヤン(ヴィダル・マグヌッセン)の家を訪れる。地下室からピストルを持ち出し、一路隣国のスウェーデンへ。
スウェーデンに入り、孤独な少女エバ(ファンニ・ケッテル)に出会ったハロルド。エバは突飛な誘拐計画にそそられ参加を申し出る。ところが、エバと母親の間にごたごたが発生。ハロルドも巻き込まれ、計画は一向に進まない。
なんとも心もとない「誘拐犯の卵」二人は、雪の降りしきる晩、通りで老人に助けを求められる。車の故障らしい。手を貸した後に顔を見ると、老人は二人が追うカンプラードその人だった──。
遠く地球の反対側から、日本にも進出しているイケア。シンプルなデザインや安さにひかれて買った人も多いだろう。世界展開する経営手法は、大量生産、薄利多売の典型だ。一方、ハロルドが作る家具は正反対。値段は高いが一つ一つ丁寧に作られている。
そもそも人はどう家具を選ぶのか。機能性、デザイン、価格。理由はさまざまだ。「ハロルドが笑う その日まで」は、ハロルドとカンプラードを対比させて描くが、どちらが善でどちらが悪か、決めるつけるのは難しい。
その証拠に、ハロルドはカンプラードと話すうち、自分との共通点すら感じるのだ。正反対の生き方、製品のはずなのに──そんな人生の皮肉が、絶妙なユーモアやジョークとともに語られる。ハロルドがノルウェーから"敵地"スウェーデンへ向かう時、乗っているのはスウェーデン車のサーブである。思わずにやりとしてしまう。
職人としては器用だが、人生を不器用に過ごしてきたハロルド。復讐の旅が終わるころ、その不器用さに癒され、観た人はきっと明日が楽しみになっているに違いない。
監督:グンナル・ヴィケネ
出演:ビョルン・スンクェスト、ファンニ・ケッテル、ビヨルン・グラナート、グレテ・セリウス、ヴィダル・マグヌッセン、ヴェスレモイ・モークリッド
2016年4月16日(土)、YEBISU GARDEN CINEMA ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。