2016/1/19

映画「最愛の子」のピーター・チャン監督に聞く/18万円で男子を"買う"ことがなんとも思われていない

子を思う親の気持ちが胸に迫り、涙を流さずにはいられない

チャオが演じたのは、子供を誘拐した側の女性。つまり平たくいえば悪役である。しかし、彼女にも事情があり、追い詰められていた。生きるために子供を受け入れ、わが子として育てていた。しかし中国では「誘拐する側に立つ」視点は受け入れられないという。

「中国と香港、中国と外国、中国の人々と私の考え方の違いかもしれない。ビッキーは『誘拐された側の話は素晴らしい。涙が出切った。感動した』と言った。しかし、彼女が演じるのは誘拐した側の女性だ。普通なら誘拐は悪い。批判すればいい。だが私はそれは意味はないと思った。彼らはなぜ悪いことをしなけらばならなかったのか。理解して知ることが大事だ」

しかし監督いわく、理由がどうあれ中国では「誘拐犯に同情するような映画」は共感を呼ばない。だから「ビッキーの考え方は中国では主流だと思う」と監督。これに対し「誘拐側の役を演じたい」と言った有名俳優もいたという。

「つまるところ考え方、価値観の違いだ。中国の俳優でも人によって違う。一般的にいえるのは、都会に住んでいる人たちは農民にマイナスイメージを持っている。わがままで自己中心的で、ずるくて強引、などという。作品を見てもまだ『誘拐犯はうそを言っている』という人がいる」

実際の事件を元にした社会性の高い「最愛の子」。過去に「ラヴソング」(96)、「君さえいれば 金枝玉葉」(94)など、良質なドラマを生んできた監督の演出も冴え渡る。子を思う親の気持ちが胸に迫り、涙を流さずにはいられない。しかし、監督はこうも言った。

「ビッキーが電話ごしに言ったんだ。『監督は社会的責任を持っている人ですね』と。いや違う。私はただ映画を撮る人間だ。私の映画は、私自身と心で対話ができなければならない。さらに観客一人一人が対話できれば、私にとっていい映画だ。年齢、時代によって異なる映画を撮る。異なる段階で、異なる対話が観客とできればいいと思う」


「最愛の子」(2014年、中国・香港)

監督:ピーター・チャン
出演:ビッキー・チャオ、ホアン・ボー、トン・ダーウェイ、ハオ・レイ、チャン・イー
2016年1月16日(土)、シネスイッチ銀座ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

2

人気キーワードHOT

特集SPECIAL