仕事が終わって24時。テレビディレクターと「よし、行こう」と飲みに繰り出す。深夜の三軒茶屋はこんな大人であふれている。入った焼き鳥屋には先客にどうも常連のような男性2人。安くてうまい焼き鳥に焼酎お湯割りでほろ酔いになってくると、狭い店内は自然と客同士が仲良くなる。
彼らは30代後半のレコード会社勤務と40代前半の舞台俳優だという。こういう客の組み合わせも三軒茶屋らしい。とにかく芸能関係者がワンサカ近くに住んでいるので、テレビでよく見るタレント、バイトが本業のような俳優など、店に入れば1人はいるというのがこの街の特徴だ。
歌手と俳優どちらが得か
かれこれ3時間ぐらい飲んでいるという俳優が言う。「歌手はいいよねえ。オレらなんてさ、呼ばれなくちゃ何もできない。歌は一発屋でも印税が入るけど、こっちは再放送料が入ってきたとしても、スズメの涙で~す」
ずいぶん酔ってきているらしい。最後は愚痴だ。
そこから歌手と俳優、どっちが得かという、答えのない議論が次々に空になっていく焼酎グラスとともに繰り広げられた。どちらも成功できるのはほんの一握りしかいない芸能界である。なんであの子が売れて、あの人が売れないのか。簡単には説明できない世界でもある。
先日も知人の舞台を見てため息が出てしまった。劇場は池袋のはずれにあるマンションの地下スペース。客席はパイプ椅子で50人も入ればギュウギュウである。客と演者の距離はわずか30センチ。このような緊張感ある空間の中で100分ノンストップの芝居が続けられた。とても面白い実力ある俳優陣。でも、誰ひとり売れてはいない。もったいない。こんなにいい舞台に脚本にいい俳優なのに。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。