「東洋の神秘」と称され、世界的に活躍したモデル山口小夜子。ドキュメンタリー映画「氷の花火 山口小夜子」は、1970年代から世界のファッションショーで活躍した後、映画、演劇、ダンス、衣装デザインと、表現者として進化し、57歳の若さで亡くなった山口の横顔を追う。監督には生前に親交のあった松本貴子。
山口が若き日、服飾を学んだ母校にトラックが入る。運ばれた大量のダンボールには、山口の遺品が詰まっていた。衣装やアクセサリーを後輩たちが取り出していく。没後8年を経て開けられた箱は、まるでタイムカプセルだ。山口の全盛期を知らぬ後輩たちは、興味津々で遺品を手に取り、展示会用に整理していく。
一方、カメラは山口の生い立ち、資生堂の専属モデル時代の飛躍を紹介する。山本寛斎、高田賢三、ジャン・ボール・ゴルチエら大物デザイナー、ファッション界関係者、高校の同級生などのインタビューをはさみつつ、ニューヨークやパリのコレクションで華々しく活躍し、世界のトップモデルに上り詰める様子を追う。
「切れ長の瞳、おかっぱの黒髪」で日本のシンボルとなった山口。その後は表現者としてあくなき探究心を見せ、変化を続けていく。舞踏グループ山海塾との共演、無名の新鋭アーティストとの協働。学校の制服もデザインするなど、芸術活動の幅は広がり続けた。一方、そんな彼女に賛同しなかった山本寛斎のインタビューが辛辣で興味深い。
クライマックスは山口を「今に蘇らせる」プロジェクト。当時衣装やメークを担当したスタッフが再集結し、モデルの松島花を山口に「仕立て上げる」試みだ。単なる懐古趣味に走らず、今なお輝く表現者・山口を知るに最適なドキュメンタリーといえる。
「氷の花火 山口小夜子」(2015年、日本)
監督:松本貴子
出演:山口小夜子、天児牛大、天野幾雄、生西康典、入江末男
2015年10月31日(土)、シアター・イメージ・フォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。