「この惑星のテレビという存在は不可解だ」
おそらく「いいとも!」に生花を届けに行くスタッフをもじった花屋の宇宙人トミー・リー・ジョーンズがつぶやく。最近人気が出たキャリアのある俳優が休みなく働いていることを嘆くシーン、なぜ人気を集めているかわからないタレントとエレベーターで遭遇、放送作家が会議をしている場面にも出くわす。
そして、花屋宇宙人ジョーンズが目にするのは舞台裏だ。スタッフルームで椅子を並べて死んだように寝ているスタッフたち、廊下でぶっ倒れているADたちを見てこう言う。
「しかも舞台裏はかなり重労働だ」
ジョーンズはさらに「視聴率という尺度が重視され、評価が決まる」と語る。
缶コーヒー「BOSS」のCMだ。この「テレビ局編」には思わず苦笑した。あんなに舞台裏のスタッフが倒れていたらブラック企業だろうと思われるかもしれない。そこまでひどいのかと驚かれる人もいるかもしれない。ところが、これがまったく嘘でも大袈裟でもない。いや、むしろよくぞここまで忠実に再現してくれたと思うCMなのだ。
タレントが歩く廊下やエレベーター、高視聴率を叩きだした番組の張り紙、スタッフルームでの様子やADたちの様子まで本物ソックリ。どこのキー局でも展開されている風景そのままだ。唯一違うのは会議風景で、ベタにセーターを肩がけしているプロデューサーらしき人物見たいのは本当はいない。たいていがスーツかワイシャツ姿、もしくは個性的なTシャツかハイファッションの人たちである。
「いい番組作りたい」「視聴率取りたい」普通じゃない人々の情熱と狂気の世界
ジョーンズが重労働とつぶやく舞台裏は、人間の本質が出るところでもある。いいものを作りたい、高視聴率を記録し自慢したいとスタッフの誰も考えている。しかし、現実はそう甘くはない。そんな時、強い思いは夜中に部下に電話をかけてきて、作品に満足しない部分があるとひたすら暴言を吐き続けたり、気にいらないことがあると撮影を止めて2時間近く説教をしたりする。そんな大人をこれまで何人見てきたことか...。
これだけを聞くとブラックと思うでしょう。でも、人々を感動させるものを作りたい熱意が、いつしか粋を越えていくことはあるのです。その不条理に耐え、いつか自分ものし上がっていくという野心がなければ、下につく者は体を壊し、心を壊していくだけだ。業界を去る人は多いし、残るのは変態じみた人ばかりといっても過言ではない。自分の事は棚に上げて、あはは。
通常では考えにくい労働時間を経て番組が放送されている。そのほとんどが別メディアで批判の対象になる。でも、「好きだから」の一言に尽きる。近頃、若手ディレクターに「仕事ヤリマンですね」と言われた。普通ならセクハラにパワハラだが、言い得て妙だったので「ウマイ!」と拍手してしまった。こんな風に思えなくちゃ、モノ作りはできない。きょうあなたが見たテレビ番組にも、きっとこういう意識のスタッフが一人や二人はいるはずだ。
モジョっこ
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。