2014/8/27

映画「マルティニークからの祈り」 パン・ウンジン監督に聞く/犯罪に巻き込まれ異国で収監 不屈の765日描く

家族に会えず、帰宅できないことこそ監獄

映画の大きな見どころの一つが、チョン・ドヨンの熱演だろう。イ・チャンドン監督作「シークレット・サンシャイン」(07)でカンヌ国際映画祭最優秀主演女優賞を獲得した実力通り、思わず引き込まれる熱演だ。パン監督の目には「非常に演技が正確な女優」と映ったという。

「カンヌで受賞後しばらく空白があり、今回の出演には欲を持って臨んでくれた。大切な感情表現をするシーンの前は、十分に話し合って演技をする人。だからワンテイク、ツーテイクぐらいであまり繰り返し撮らないタイプ」

チョン・ドヨンにとって、「シークレット・サンシャイン」への出演は大きな転機になったという。

「イ監督は俳優に『現場を感じなさい』と言うように、具体的な演技の指示をしない。彼女も『最後には監督を憎悪するほどもどかしかった』そうだが、あれから演技のスタイルが変わり、今ではほかの俳優と格が違う女優になった。とても愛らしい面と、とても鋭く、ハリネズミのように頑固な面もある。よく話し合いながら、折れてもらうところでは折れてもらった」

麻薬密輸を軸にした物語だが、根底で主人公の家族に対する愛情の深さが描かれる。ジョンヨンのモデルとなった女性の手記に、監督は深く共感したという。女性は事件の起きる前、家賃も払えぬ貧しさの中、幼い娘にダウンジャケットを買ってあげていた。投獄された事実より、家族に会えず、帰宅できないことこそ監獄だったのでは、という。

「娘さんが2年ぶりに彼女に会った時、『私が赤ちゃんだった時のお母さんなの?』と聞いたそうだ。とても印象的だった。彼女が訴えたかったのは、悔しさだけではなかったと思う。罪を認めたシーンに、『家に帰りたい。家族に謝りたい』というせりふを入れた。モデルになった女性は作品を観て、私を抱き締め『いい映画を作ってくれてありがとう』と言ってくれた」

不屈の765日間。家族に再会するため、不屈の精神で戦った女性の記録である。


「マルティニークからの祈り」(2013年、韓国)

監督:パン・ウンジン
出演:チョン・ドヨン、コ・ス、カン・ジウ、ペ・ソンウ、コリンヌ・マシエロ
2014年8月29日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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