社会から見放されても愛を求めてやまない人々
カメラを回している以外の時間は、廊下に座って患者たちと話をすることも多かった。「よくタバコをねだられた。私のことを"タバコをくれる人"とみていたようだ(笑)。お茶や日用品を求められたこともある。彼らは、病院内で起きたことを話してくれた」
タイトルの「収容病棟」は、なんとなく暗く非人間的なものを感じさせるが、患者たちには明るく人なつこい人も少なくない。
「この映画を撮影するまでは、精神病院や患者の実態についてほとんど知らなかった。撮影に入って毎日患者たちと一緒に過ごすと、一人ひとりの性格や病状が、少しずつ把握できるようになった。彼らが入ってきた理由、家庭環境もだんだん分かってきた」
終盤に印象的なラブシーンがある。鉄格子越しに男性と女性の患者が抱き合いキスをする。逆光の中に浮かび上がるシルエットが美しい。
「女性は一人っ子政策に違反して病になった。二人が恋愛関係にあることは、いろいろな人から話を聞いて知っていた。二人のシーンはかなり撮ったが、最もシンプルなシーンだけを編集段階で残した。あれは春節の大みそかから元日にかけて。逆光なのはあの場所にトイレがあり、人がくると電気がつくようになっているせい。あそこに行けば逆光で撮れることは分かっていた。二人はもっと直接的な触れ合いもしていたが、撮影するのは遠慮した」
作品の原題は「瘋愛」。瘋の意味は「狂った」だ。「精神を病んだ人たち同士の人間的な愛をタイトルで表現したかった」そうだが、"鉄格子越しの愛"は、象徴的なシーンだろう。
社会から見放されてもなお、愛を求めてやまない人々。「収容病棟」は、そんな人々の日常をありのままに切り取った渾身のドキュメンタリーだ。前・後編合わせて4時間の長尺。しかし、濃密な映像からは一瞬たりとも目を離すことができない。ワン・ビン監督の面目躍如である。
「収容病棟」(2013年、香港・仏・日本)
監督:王兵(ワン・ビン)
2014年6月28日(土)、シアター・イメージフォーラムほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。