精神病患者が1億人を超えるとされる中国。その精神病院にカメラが入った。記録されたのは社会から見放されてもなお愛を求めてやまない、実に人間的な人々の姿だ。「無言歌」(10)、「三姉妹 雲南の子」(12)のワン・ビン(王兵)監督が、社会のタブーに踏み込み、人間の本性をつかみ出したドキュメンタリー映画「収容病棟」。監督は「精神を病んだ人たち同士の人間的な愛を表現したかった」と語った。
"生きているか死んでいるか"なんてどうでもいい
精神病院をテーマにドキュメンタリーを撮ろうと思い立ったのは2003年。北京郊外の精神病院を訪れた時だった。精神病患者に会ったのは初めて。20年も30年も入院している患者がいることを知り、衝撃を受けた。
「さっそく撮影を申し入れたが断られた。09年まで何度も訪れたが、結局撮影許可は下りなかった」
最後に訪れた時、何人かの患者が姿を消していることに気付く。看護師に尋ねると「亡くなった」という。 「看護師たちは、私がそんな質問をしたことに驚いていた。それまでそんなことを聞いてくる人はいなかったからだ。入院している患者たちは家族に見捨てられた人たちが多かった。だから"生きているか死んでいるか"なんてどうでもいいことだった」
北京の病院は断念。しかし3年後の12年、吉報が舞い込む。ある友人が雲南省の精神病院で撮影許可を取ってくれたのだ。撮影には一切制限もなく、自由にカメラを回していいという。さっそく準備を整え、数か月後には撮影開始。問題は精神病院という閉鎖的な空間で、独自の撮影スタイルが保てるかだった。
「ほどよい距離を保ちながら撮るのが私のスタイル。あまり近付き過ぎるのは好きではない。しかし、病院は空間が非常に限られていた。廊下は回廊状で、幅は1メートルくらいしかない。画面では広く見えるかもしれないが、とても狭い。カメラを回すと誰かにぶつかる。最初の10日くらいは、自分の好きではない近距離で撮らざるを得ないこともあった。しかし、15日目くらいからは、歩いてくる人を巧みによけて撮る方法を習得し、いつものスタイルで撮れるようになった」
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。