デビュー作「鰐 ワニ」(96)からキム・ギドク監督作品を紹介してきた釜山国際映画祭。今年は新作「メビウス」(原題)を招待作品に選ぶとともに、キム監督と愛弟子の若手監督のトークイベントを企画した。そこで語られた「キム・ギドク・スタイル」とは――。
2013年10月6日のイベントに同席したのは、キム監督の助監督出身のチョン・ジェホン監督とムン・シヒョン監督。チョン監督は「プンサンケ」(11)、ムン監督は今回上映された「神の贈り物」(原題)を、いずれもキム監督の脚本で演出した。ムン監督は、キム・ギドク組ではめずらしい女性監督だ。「キム監督に女性扱いされたことはない」と笑うムン監督に、キム監督は「一生懸命やったから早くデビューできた。次は自分の脚本で撮り、独り立ちしてほしい」と激励した。
観客動員数は19本で500万人にも届かない
誰にもまねのできない強烈な作品を、コンスタントに発表してきたキム監督。「メビウス」は19作品目となる。「キム・ギドク・スタイルとは何か」という質問に、監督は「心をえぐる映画を作るのが基本。観客の数や製作費より、脚本に心を込めなければいけない」と力説した。
キム監督は撮影期間が短いことで有名。「メビウス」は5日、「嘆きのピエタ」(12)は12日でクランクアップしたが、対照的にシナリオ執筆には1年ほどかけたという。「カメラで遊ぶ(撮影技術に頼る)ことはしない。最も大切なのは脚本」が持論だ。また、「私の映画の動員数は『嘆きのピエタ』まで19本で計500万人に届かない。それでも撮り続けられる理由は、脚本を書く力。脚本公募展で入選し、製作費を得る方法で続けてきた」と振り返った。
知名度の比較的低い俳優を発掘するのもスタイル。「メビウス」では女優のイ・ウヌを一人二役で起用した。イ・ウヌは「神の贈り物」にも主演しているが、「メビウス」とはまったく違うキャラクターを演じ、新境地を見出した。
会場を埋めたファンからは、質問が続出した。映画専攻の大学生は「学生の作品に教授たちが手を入れ、自由な発想を奪う。そんな現状に忠告を」と要望。キム監督は「今の学生の映画は、自分が同年齢の頃とは比較できないほど情熱的。ただし、それまでの人生経験で作ると、テクニックに走るきらいがある。そうではなくストーリーに集中してほしい」とアドバイスした。
また、キム・ギドク作品に繰り返し表れる死生観・宗教観については「『悲夢』(08)では『死は眠り』というメッセージを込めた。死ぬことは終わりではない。人間であれ動物であれ、死に優劣はない。同じものなのだ」と、独特の見方を披露した。
記事提供:映画の森
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