1950年代米国のリアリティーを再現した監督に拍手
そういえば「ゼア・ウィル・ビー・ブラッド」にも、2つの強烈な人格が登場した。破天荒な主人公と、敵対する教会の牧師。しかし今回は対立ではなく、共存する形で2人はつながる。過去に出会ったことのない人物としてひかれ合い、惚れ合うのである。ランカスターがフレッドにカウンセリングし、近親相姦や戦場での殺人などのトラウマに直面させるシーン。2人の激しい心の触れ合いを劇的に表現している。
とにかく全編138分、ファーストカットからラストカットまで、緊張と興奮が途切れない。フェニックスとホフマンの熱演のたまものだが、それだけではない。徹底的な時代考証で再現した当時のリアルな風景があるからこそ、彼らの演技も生きるのだ。フレッドとランカスターはもちろん、登場する人物はいかにも当時の米国人らしく見えるし、マネキンガール、ドリス・デイ、キャスパーといった「記号」も、時代のムードを自然に醸し出している。
また、現在はほとんど使われない65ミリフィルムでの撮影も特筆に値しよう。全盛期のハリウッド映画を彷彿させる色彩と光が、ゴージャスな映像を生み出した。当時のリアリティーを再現した監督の作家魂に、心から拍手を送りたい。
「ザ・マスター」(2012年、米国)
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ホアキン・フェニックス、フィリップ・シーモア・ホフマン、エイミー・アダムス、ローラ・ダーン
2013年3月22日、TOHOシネマズシャンテ、新宿バルト9ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。