いつか台湾が立ちあがったとき、日本人がサポートできれば
──監督の作品では、2作続けて日本統治時代を知る台湾の高齢者が主人公ですよね。こだわりはあるのでしょうか。
もちろんこだわっています。台湾の日本語世代からは、教わることや気付かされることが多かった。とても単純なことですが、「日本人である」ということは、どういうことなのか―。以前は考えたこともありませんでした。台湾で「僕は昔、日本人だったよ」という人に会うことで、自分が日本人であることを自覚する。台湾で日本が何をしてきたのか、考えるきっかけにもなりました。台湾は身が引き締まり、背筋が伸びる場所でもあります。
あと、「台湾人生」を撮り始めた1990年代は、(過去や歴史を語ることについて)現地の人の間に「大きい声では言えないけれど」と声をひそめる空気がありました。でもここ10年ぐらいで環境も変わってきているように感じます。
──日本人はそんな台湾と、これからどう付き合っていけばいいと思いますか。
個人的には、国として認めなければならないなと思います。国連にも加盟できず、国交がある国は限られている状況を、台湾の人たちは残念に感じていると思います。いまは「現状維持でいい」という人が大半ですが、いつか台湾の人々が「僕たちは国としてやります」と立ちあがった時こそ、日本人がサポートできればいいなと思っています。
郭茂林(かく・もりん) 1921年台北生まれ。台北工業学校(現・台北科技大学)で建築を学び、日本人の恩師の勧めで日本へ移住。戦後は日本国籍を選択。東京大学建築科で研究生活を送り、高度成長期の超高層ビル計画に次々と携わった。台湾でも台北駅地区再開発など多くのプロジェクトを手がけた。2012年4月死去。
酒井充子(さかい・あつこ) 1969年山口県生まれ。慶応大学法学部卒業後、96年に北海道新聞社入社。98年に初めて台湾を訪れ、2000年に現地取材を開始。台湾の日本語世代を追ったドキュメンタリー「台湾人生」(09)で監督デビュー。現在台湾や横浜を舞台に3作目を撮影中。
「空を拓く 建築家・郭茂林という男」(2012年、日本)
監督:酒井充子
出演:郭茂林、李登輝、藤森輝信
2013年2月2日、渋谷ユーロスペースでモーニングショー。オフィシャルサイト
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。