すべて事実に基づいたエピソード
脚本執筆にあたって入念な取材を重ねたというボガニム監督。印象に残ったエピソードはすべて盛り込んだという。
「事故を知りながら公言できず、精神を病む技師のアレクセイ。彼の息子で父に手紙を書く少年ヴァレリー。実話に基づいたキャラクターだ。それまで事故の経験を語る機会がなかったのか、取材した人たちはみな協力的でした」
監督自身の体験も反映されている。第2部でアーニャと恋人が、フランスへ移住する計画を語るというシーンがあるが、このくだりは監督がレバノン戦争に巻き込まれ、イスラエルからフランスへ移住した少女時代が重ねられているそうだ。
「チェルノブイリの事故そのものではなく、事故で住み慣れた土地を去らなければならない人々を描きました。当時のウクライナには、故郷を出るために外国人との恋愛を求めた女性も多かったと聞いています」
もちろん、彼女たちは望んで故郷を離れるわけではない。「汚染された故郷を離れなければならないと分かっているが、一方で故郷を捨てたくない思いもある。アーニャは2つの感情に引き裂かれている。ガイドを務めるアーニャが、ゾーン内の空き家に住みついたタジキスタン難民を見て激昂するシーンには、"自分の居場所を明け渡したくない"という気持ちが表現されているのです」
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