デヴィッド・リンチ、リトグラフ制作風景
現代美術の画廊主として知られる小山登美夫さんが、渋谷ヒカリエ8Fに新たにオープンした「8/ART GALLERY/Tomio koyama Gallery」)では2012年6月27日から7月23日まで、「デヴィッド・リンチ展」を開く。展示される作品は、リトグラフ10点、水彩画12点を中心とするリンチの最新の美術作品だ。
リンチの美術作品と聞いて、驚く人も多いかもしれない。一般にリンチというと、読解の難しい映像を作る映画監督のイメージが強いからだ。それは正しいが、たとえば美術に明るい人がリンチの映画を見たなら、カメラによって再現されたアメリカの風景に、抽象的なイメージが現れてくることに気づくに違いない。その奇妙な違和感に、アメリカ具象絵画の巨匠エドワード・ホッパーを思い起こすことだろう。さらに、リンチのインタビューなどをくまなく読むと、ポスト・ウォーを代表する画家フランシス・ベーコンへの敬愛の言葉を何度も見ることになる。
リンチが「イレーザーヘッド」で映画監督デビューしたのは70年代後半。同期や後輩の映画監督たちがそろって自らを「シネフィル(映画狂)である」と認める中で、「自分は違う」と公言するリンチ。だからこそ、彼にとって、美術は重要なものなのだ。バイオグラフィーを振り返ると、美術家としてのキャリアの方が映画よりも古いことがわかる。そうして継続して制作してきた作品群は2007年、最新映画「インランド・エンパイア」の公開に合わせ、カルティエ美術財団で大回顧展として展示され大盛況を博した。パリは、アーティスト、デヴィッド・リンチを称えることとなった。
そのリンチの美術作品が東京で展示されるのは、1996年のパルコギャラリーの展示以来のこと。16年待ったファンも、これまで映画だけを見ていたシネフィルも、まだ何も見たことのない人も、1度はこの機会に訪ねてみては。入場無料。
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