米アカデミー賞、米ゴールデン・グローブ賞、英アカデミー賞の最優秀外国語映画賞を獲得するなど、世界的に高く評価された「グレート・ビューティー 追憶のローマ」。初老の作家が「偉大な美」を求め、歴史ある街をさまよう物語だ。
一番大切な何かを手に入れられずにいた
作家でジャーナリストのジェップ・ガンバルデッラ(トニ・セルビッロ)は65歳。二十代で発表した小説が高く評価され、富と名声を手にしていた。今は有名人や芸術家へのインタビュー記事を雑誌に寄稿する日々。文壇の人々にも一目置かれ、文化人として才能と知性を広く認められていた。
人生の折り返し点を過ぎた今も、夜な夜なローマの街をさまよい、パーティーやレセプションに出現。美女やセレブリティーに囲まれ、酒を飲んで乱痴気騒ぎに興じ、とりとめのない会話を繰り返している。それが空虚で無意味なことも、ジェップは十分承知していた。欲しいものをすべて手に入れたようでも、まだ一番大切な何かを手に入れられずにいたのだ。
ある日、ジェップの元に1本の訃報が届く。初恋の女性、エリーザが亡くなった。知らせたのはエリーザの夫。「妻は35年間、あなたを愛していた」と言う。ジェップもまた、初恋のエリーザを密かに思い続けていた。永遠の別れに打ちのめされ、街の喧騒に身をひたしていく。
そして立ち寄った旧友の経営するバーで、ダンサーのラモーナと知り合い、二人は意気投合。互いの心の傷を共鳴させるように、連れ立って食事やパーティーへ出るようになる──。
偉大なる美が積み重なった永遠の都・ローマ。退廃的で空虚、濃密な空気が街を覆う。夜のパーティーの喧騒、壮大な歴史的建造物、豪奢なファッション、突き抜ける青い空。すべてが作家を包み、虚無感が空間に満ちていく。コロッセオ、水道橋、教会と修道院──街を象徴するさまざまな建築物も、重要な登場人物として主人公に寄り添う。
同じローマを舞台にした「ローマ環状線、めぐりゆく人生たち」(公開中)は、街の片隅で暮らす名もなき人々を、静かに見つめたドキュメンタリーだった。対照的に「グレート・ビューティー 追憶のローマ」が映し出すのは、まったく異なる古都の一面。饒舌で色彩豊かな別の顔だ。まるで人間のように生き生きと、ローマは生きている。
「グレート・ビューティー 追憶のローマ」(2013年、イタリア)
監督:パオロ・ソレンティーノ
出演:トニ・セルビッロ、カルロ・ベルドーネ、サブリナ・フェリッリ、ファニー・アルダン、カルロ・ブチロッソ
2014年8月23日(土)、Bunkamura ル・シネマほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。