偶然出会った自分に瓜二つの他人。「複製された男」は、ポルトガルのノーベル文学賞作家、ジョゼ・サラマーゴの同名小説を、カナダの新鋭ドゥニ・ビルヌーブ監督が映画化した。幻想的で無機質な世界を舞台に、複雑で緻密に練られたミステリーだ。
真相を暗示するセリフ、想像力を刺激するさまざまな小道具
大学で歴史を教えるアダムは、同僚から映画のビデオテープを勧められて借りる。自宅でなにげなく見ていたところ、画面に自分と瓜二つの男がいることに気づく。あまりに似ているため、驚きは恐怖に変わり、アダムは男の行方を探し始める。
やがてその男・アンソニーの居場所を突き止めたアダム。遠くからこっそり監視するうち、居ても立ってもいられなくなり、直接会って話すことを決意する。対面した二人。話してみると、顔や声、体格、生年月日、長じてから体にできた傷まで一緒と分かる。
いったいどちらがオリジナルで、どちらがコピーなのか。衝撃を受けた二人は、もう一人の自分の存在が頭から離れない。悩みは日常生活にも支障をきたし始め、互いの妻や恋人を巻き込み、自己喪失の危機が拡大していく──。
全体に黄味がかった画面と、無機質で生活感のない町。大学へ行き、帰宅し、自宅で過ごす単調な毎日。主人公のぼんやりした倦怠感をギレンホールがうまく出している。そんな中で偶然見てしまったもう一人の自分。神経質な彼は追いかけずにいられない。
真相を暗示するセリフ、想像力を刺激するさまざまな小道具。近未来的でありながら、空気がのっぺりした息の詰まる世界。一番近くにいるのに、なぜか謎めいた恋人と妻。監督は原作を読みながら「強いめまいを感じた」というが、その戸惑いがうまく映像化されている。
ポルトガル語圏が生んだ唯一のノーベル賞作家、サラマーゴが「ある朝ひげを剃っていて、鏡に映る自分を見た時思いついた」物語。観客に問いを投げ続けながら、混沌の世界にいざなう作品だ。
「複製された男」(2013年、カナダ・スペイン)
監督:ドゥニ・ビルヌーブ
出演:ジェイク・ギレンホール、メラニー・ロラン、サラ・ガドン、イザベラ・ロッセリーニ、ジョシュ・ピース
2014年7月18日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。