1970年代後半のカンボジア。ポル・ポト率いるクメール・ルージュ（カンボジア共産党）の弾圧で、市民200万人近くが殺された。リティ・パニュ監督の「消えた画 クメール・ルージュの真実」は、忌まわしき悪夢を"土人形"で再現。失われた記憶を取り戻そうとする作品だ。

終わりのない悲しみ。一度死んだような感覚

75年、クメール・ルージュが政権を掌握。毛沢東思想を取り入れ、国民の私有財産を没収し、文字や映像資料をことごとく焼き払った。知識人は排斥され、都市民は農村移住を強いられ、強制労働に従事させられた。監禁、拷問が日常化し、無実の人々が次々と連れていかれ、虐殺された。

パニュ監督は当時十代前半。教師だった両親を含め、親せきや友人を多く失った。自身も強制労働所に送られたが、79年に15歳で脱出に成功。国境を越えてタイに逃れ、その後フランスへ移住した。89年、パリで映画監督デビュー。ドキュメンタリー、フィクションを問わずカンボジアの悪夢を描き続け、｢消えた画」はカンヌ国際映画祭「ある視点」部門グランプリを獲得した。

ポル・ポト派は伝統文化を禁じ、映像もすべて焼き払った。人々を奴隷のように扱い、個々の顔を消し、共同生活する様子をプロパガンダ映像に収めた。一方、監督が幼いころのカンボジアは、歌と色があふれ、文化の香り高い場所だったという。

失われてしまった幸せな記憶、家族、文化を取り戻したい。監督は殺された人々が眠る故郷の土で人形を作り、かつてのカンボジアを再現した。そこへポル・ポト派のプロパガンダ映像を挿入。二つを対比させることで、人々を襲った悲劇を伝えている。

人形は物を言わない。表情もない。動かないことが逆に虐殺に対する想像力をかきたて、観る人に痛みや悲しみを感じさせる。パニュ監督は「私たちが抱えているものは、『恨み』などの言葉で表現できるものではない。終わりのない悲しみ。一度死んだような感覚だ。私たちは再び生まれ直し、死を抱えながら生きていく」と話している。

記事提供：映画の森

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