2026/07/24 22:00
ここにどうして蛇紋岩?

ポイント
・ 紀伊半島に分布する白亜紀付加体中に混じりこんだ蛇紋岩について、その分布・産状の詳細な調査に加えて、岩石学的・地球化学的・構造地質学的分析を実施
・ 海洋プレートのマントル物質起源である蛇紋岩が海洋プレート内の断層を通じて上昇し、プレート境界を越え、付加体に貫入するという新たなモデルを提案
・ 蛇紋岩が関与する地震発生やマグマ形成メカニズムの実態解明につながることが期待
【画像:https://kyodonewsprwire.jp/img/202607222910-O1-amUVoFGu】
概 要
国立研究開発法人産業技術総合研究所(以下「産総研」という)地質情報研究部門 志村 侑亮 研究員(研究当時、現:国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学)、羽地 俊樹 主任研究員ら、国立大学法人島根大学 遠藤 俊祐 准教授、国立大学法人東海国立大学機構 名古屋大学 淺原 良浩 准教授らの研究チームは共同で、紀伊半島中央部に分布する白亜紀付加体中の蛇紋岩について詳細な地質調査と各種分析を行い、その起源が海洋プレートのマントル物質であることを明らかにしました。さらに蛇紋岩が、沈み込む海洋プレート内の断層を通じて上昇し、付加体に貫入するという新たなモデルを提案しました。
蛇紋岩は、地下深部のマントル物質が水と反応してできた岩石です。紀伊半島中央部には、プレート境界浅部で形成された付加体と、その付加体がプレート境界深部の高圧環境下で変成した変成岩が広く分布しており、それらの中には蛇紋岩が取り込まれています。変成岩中に見られる蛇紋岩については、大陸プレートのマントル物質起源と考えられています。一方、大陸プレートのマントルまで到達しない浅い場所で形成された付加体中の蛇紋岩については、その起源は今まで明らかになっていませんでした。
今回、紀伊半島中央部の蛇紋岩の詳細な分布・産状を調査し、岩石学的・地球化学的・構造地質学的分析を実施しました。その結果、蛇紋岩は海洋プレートのマントル物質起源であり、付加体ができた後に蛇紋岩が貫入したことを明らかにしました。これらのことを踏まえ、蛇紋岩がプレート沈み込み前にできた切れ目であるアウターライズ断層を通じて上昇し、プレート境界を越え、付加体に貫入するという新たなモデルを提案しました。蛇紋岩は沈み込み帯における流体循環やプレート境界の力学特性に大きな影響をもたらすと考えられており、今後、沈み込み帯における蛇紋岩の分布や移動プロセスを詳細に明らかにすることで、蛇紋岩が関与する地震発生やマグマ形成メカニズムの実態解明につながることが期待されます。
なお、この研究成果の詳細は、2026年7月24日(米国東部夏時間)に「Tectonics」に掲載されます。
下線部は【用語解説】参照
※本プレスリリースでは、化学式や単位記号の上付き・下付き文字を、通常の文字と同じ大きさで表記しております。
正式な表記でご覧になりたい方は、産総研WEBページ
( https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260724/pr20260724.html )をご覧ください。
研究の社会的背景
日本列島は海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む、沈み込み帯に位置しています。日本列島には、海洋プレートが沈み込む際に、砂岩・泥岩・チャートなどの海洋プレート上に堆積した地層や、玄武岩などのプレートそのものの岩石がプレート境界ではがされて、大陸プレートに付加して形成された「付加体」や、付加体が地下20 km以深のプレート境界深部の高圧環境下まで沈み込むことで変成して形成された変成岩が広く分布しています。付加体や変成岩には、蛇紋岩とよばれる地下深部のマントル物質起源の岩石が取り込まれている例が日本各地で見られます。
蛇紋岩は、マントル物質に水が加わることで形成される岩石です。多くの水を蓄えることができる蛇紋岩は、プレートの沈み込みによって地下深部に運ばれ、放出された水が沈み込み帯での地震発生やマグマ形成に重要な役割を果たしていると考えられています。
蛇紋岩のルーツには、海洋プレート起源と大陸プレート起源のものがあります。これまで、四国の三波川変成岩類など、白亜紀変成岩中の蛇紋岩は、大陸プレートのマントル物質起源とされてきました[1]。しかし、プレート境界の浅い場所で形成された付加体中の蛇紋岩は、その起源や付加体に取り込まれたメカニズムの多くが未解明のままでした。
研究の経緯
紀伊半島中央部には、白亜紀当時の沈み込み帯のプレート境界で形成された付加体(四万十付加体)や高圧型変成岩(三波川変成岩類)が分布しており、それらの岩石の中には蛇紋岩も見られます。研究チームはこれまで、紀伊半島中央部の高見山地域およびその周辺地域を対象に地質調査を実施し、四万十付加体および三波川変成岩類の地質構造や発達史の解明に向けた研究を進めてきました。また、その成果の一部を5万分の1地質図幅「高見山」[2]として刊行しました(2025年3月21日 産総研プレス発表)。今回、紀伊半島中央部に露出する四万十付加体中の蛇紋岩を対象に、地質調査に加え、岩石学的・地球化学的・構造地質学的分析を実施し、蛇紋岩の起源や付加体への定置プロセスの解明に取り組みました。
なお本研究は、日本学術振興会の科学研究費助成事業(科研費)(課題番号:JP21H05200、JP22H05314、JP22K14129、JP26K17261)による支援を受けて実施されました。
研究の内容
研究チームは、紀伊半島中央部に分布する白亜紀の四万十付加体および三波川変成岩類を対象に地質調査を実施し、蛇紋岩が特定の地質ユニット(四万十付加体の小栗栖ユニット)にのみ分布することを明らかにしました(図1)。
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蛇紋岩分布域において詳細な地質調査を実施した結果、蛇紋岩は長さ150 m以上・最大幅10 mのスラブ状岩体として産し、付加体との境界部では顕著な交代作用により滑石岩化していることが明らかになりました(図2a)。また、蛇紋岩および滑石岩は、付加体の地質構造を明瞭に切断しており、蛇紋岩が付加体形成後に貫入したことを示しています(図2b、c)。
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研究チームはさらに、蛇紋岩中の鉱物を解析しました。その結果、蛇紋岩には低温型の蛇紋石であるリザダイトが認められました(図3a)。また、蛇紋岩化以前のマントル物質に由来するクロムスピネルも確認されました(図3b)。クロムスピネルの化学組成を分析した結果、海洋プレート起源の組成をもつことが明らかになりました(図3c)。これらの特徴は、付加体がプレート境界深部の高圧環境下まで沈み込むことで形成された三波川変成岩類中に産する、大陸プレート起源の蛇紋岩とは大きく異なる特徴です(図3c)。これらの結果から、研究チームは対象とした蛇紋岩が海洋プレート起源であると結論付けました。
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では、海洋プレート起源の蛇紋岩はどのように付加体に貫入したのでしょうか?現在の沈み込み帯では、沈み込み直前の海洋プレートの屈曲に伴って形成される、アウターライズ断層に沿って流体が深部まで浸透することで、海洋プレートのマントル物質が蛇紋岩化していることが明らかになっています[3]。そこで研究チームは、蛇紋岩化した海洋プレートがアウターライズ断層を通じて上昇し、プレート境界を越え、付加体に貫入する新たなモデルを提案しました(図4)。
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さらに研究チームは、蛇紋岩の貫入に伴う交代作用について検討しました。蛇紋岩と付加体構成岩の化学組成に基づくマスバランス解析の結果、蛇紋岩は境界部(滑石岩領域)で顕著なSiO2交代作用およびCa–CO2交代作用を受け、境界部から離れた内部ではSiO2交代作用およびCO2交代作用を受けていたことが明らかになりました(図5)。また、これらの反応に必要なSiO2およびCO2は、外部流体によって供給されたことが示されました(図5)。この解釈は、境界部の滑石岩にCa–Mg炭酸塩鉱物脈と滑石が認められることや、蛇紋岩内部にMg炭酸塩鉱物脈と滑石脈が発達することとも整合的です。さらに構造地質学的解析の結果、こうした流体流入を伴う交代作用と体積膨張が生じていたにもかかわらず、その際の応力状態は沈み込む海洋プレートからの押しによる定常的な水平圧縮応力場によって支配されていたことが明らかになりました(図6)。
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今後の予定
本研究は、「蛇紋岩がどのように沈み込み帯で付加体と混じるのか」という問題に対して新たなモデルを提示するとともに、蛇紋岩貫入に伴う化学的・物理的プロセスについても新たな知見を提供しています。今後、過去の沈み込み帯で形成された付加体だけでなく、現在の沈み込み帯においても、地震波探査断面の解析を通じて同様の蛇紋岩上昇・貫入構造が認識されることが期待されます。さらに、沈み込み帯における蛇紋岩の分布や移動プロセスを詳細に明らかにすることで、蛇紋岩が関与する地震発生やマグマ形成メカニズムの実態解明につながることが期待されます。
論文情報
掲載誌:Tectonics
論文タイトル:Origin, tectonic processes, and metasomatism of serpentinite in the Shimanto Accretionary Complex, SW Japan: Possible diapiric intrusion of serpentinized oceanic lithosphere
著者:Shimura, Y., Endo, S., Asahara, Y., Haji, T., Ushimaru, K., & Yamamoto, K.
DOI:https://doi.org/10.1029/2025TC009237
研究者情報
産総研
地質情報研究部門 羽地 俊樹 主任研究員、牛丸 健太郎 研究員
名古屋大学
大学院環境学研究科 志村 侑亮 講師、淺原 良浩 准教授
名古屋大学博物館 山本 鋼志 特任教授
島根大学
総合理工学部 遠藤 俊祐 准教授
参考情報
[1] Aoya, M. et al. Paleo-mantle wedge preserved in the Sambagawa high-pressure metamorphic belt and the thickness of forearc continental crust. Geology. 2013, vol. 41, no. 4, p. 451–454. DOI: https://doi.org/10.1130/G33834.1
[2] 竹内 誠ほか. 高見山地域の地質. 地域地質研究報告(5万分の1地質図幅), 産総研地質調査総合センター. 2025, 118p.
[3] Ranero, C. R. et al. Bending-related faulting and mantle serpentinization at the Middle America trench. Nature. 2003, vol. 425, p. 367–373. DOI: https://doi.org/10.1038/nature01961
用語解説
付加体
沈み込み帯で海洋プレートが沈み込む際に、海洋プレート上に堆積した地層(砂岩・泥岩・チャートなど)や海洋プレートそのものの岩石(玄武岩など)が、プレート境界ではがされ、大陸プレート側に付加して形成される地質体。
蛇紋岩
マントルを構成するかんらん岩などの超苦鉄質岩が、水と反応して形成される岩石。多量の水を取り込み地下深部へ運ぶ性質や、特徴的な物理的・化学的性質をもつことから、沈み込み帯における地震発生やマグマ形成に重要な役割を果たしていると考えられている。
プレート境界
プレート同士が接する境界。沈み込み帯では沈み込む海洋プレートとその上にある大陸プレートとの境界を指し、付加体や高圧型変成岩が形成されるとともに、多くの地震が発生する場所でもある。
アウターライズ断層
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む直前に、海洋プレートの屈曲によって形成される断層。アウターライズ断層に沿って流体が深部まで浸透することで、海洋プレートのマントル物質が蛇紋岩化することが知られている。
沈み込み帯
海洋プレートが大陸プレートの下に沈み込む場所。地震や火山活動が活発に生じる。
交代作用
岩石と流体、あるいは異なる岩石同士の間で物質が移動し、もとの岩石の化学組成が変化する現象。蛇紋岩は大陸地殻や付加体を構成する岩石に比べてSiに乏しく、Mgに富むため、これらの岩石との接触部では交代作用が生じることがある。
滑石岩
主に滑石(タルク)からなる岩石。蛇紋岩がSiO2交代作用やCO2交代作用を受けることで形成される。
蛇紋石
蛇紋岩の主要な構成鉱物。かんらん岩などの超苦鉄質岩が水と反応して形成される。蛇紋石にはリザダイト、クリソタイル、アンチゴライトなどの種類がある。
リザダイト
蛇紋石の一種。比較的低温の条件で形成され、高温側ではアンチゴライトが形成される。そのため、蛇紋岩が形成された温度条件を推定する手がかりとなる。
クロムスピネル
Mg、Fe、Al、Crを主成分とする酸化鉱物。マントルを構成するかんらん岩などの超苦鉄質岩に含まれる。かんらん岩が蛇紋岩化しても、クロムスピネル粒子は変質に強いため残ることがあり、その化学組成はマントル物質の起源を明らかにする重要な手がかりとなる。
マスバランス解析
岩石の化学組成を比較し、元素の増減を定量的に評価する解析手法。
応力
岩石に力が加わることで岩石内部に生じる単位面積あたりの力。
プレスリリースURL
https://www.aist.go.jp/aist_j/press_release/pr2026/pr20260724/pr20260724.html
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