映画「ムーンライト」/闇の中だけで輝く本来の自分
(C)2016 A24 Distribution, LLC
2月末に発表された米アカデミー賞で、大本命の「ラ・ラ・ランド」を押さえて作品賞を受賞した「ムーンライト」。米マイアミの貧困地域を舞台に、黒人少年シャロンの成長を3つの時代に分けて描く。
第1章「リトル」。子供時代のシャロン(アレックス・ヒバート)のあだ名はリトル。麻薬中毒の母ポーラ(ナオミ・ハリス)と暮らしていた。内気なため学校ではいじめられ、唯一の友人は同級生のケビン。いじめっ子に追われて暗い廃屋へ逃げ込んだシャロンに、麻薬の売人フアン(マハーシャラ・アリ)が手を差し伸べる。明るい世界へ導かれたシャロンにとって、フアンは父親のような存在になっていく。
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第2章「シャロン」。高校生になってもシャロン(アシュトン・サンダース)は相変わらずいじめられていた。母は麻薬で酩酊している。シャロンの心のよりどころはフアンの家だった。フアンは亡くなったが、妻が変わらず迎えてくれた。ある日、同級生にののしられたシャロンは海へ向かう。月明かりに照らされた浜辺に、偶然ケビンもやって来た。2人は初めて互いの心に触れ合う。
第3章「ブラック」。高校で事件を起こしたシャロン(トレヴァンテ・ローズ)。アトランタへ引っ越し、フアンと同じ麻薬の売人になっていた。筋骨隆々の体に金のネックレス。高級車を乗り回す姿は、ありし日のフアンのようだった。そんなある夜、突然ケビンから電話が入る──。
純真なアイデンティティーに向き合う
性的少数派と複雑な愛の形を描いた「ムーンライト」。テーマは重く切ない。劣悪な環境に生まれた少年が、父のようなフアンに出会い、擬似的な家族の温もりを知り、大きくなっていく。一方で浴びせられる同級生からの偏見、内に秘めた葛藤はアグレッシブに描写される。最終章では一転、時間の流れが穏やかに。シャロンは一途に貫いてきた恋愛感情、純真なアイデンティティーに向き合う。
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題名の「ムーンライト」が暗示する「闇の中だけで輝く本来の自分」が、最後に浮かび上がり味わい深さもひときわとなった。米アカデミー作品賞の冠にとらわれず、純粋に作品と向き合うことを勧める。
「ムーンライト」(2016年、米国)
監督:バリー・ジェンキンス
出演:トレバンテ・ローズ、アンドレ・ホランド、ジャネール・モネイ、アシュトン・サンダース、ジャハール・ジェローム
2017年3月31日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。