(c)Shayne Laverdière, Sons of Manual
12年ぶりに里帰りした主人公と家族の交流を描いた「たかが世界の終わり」。久々の再会を喜び合い、昔話に花を咲かせるようなハートウォーミングな話ではない。なにしろ監督はグザヴィエ・ドラン。社会と個人の不協和、他人と自己との非調和をテーマに映画を撮り続けてきたドランが焦点を当てたのは"家族の中での孤独"だ。
主人公のルイは高名な作家であり、ゲイでもある。対して家族である母、兄、妹はきわめて平凡な人たちだ。彼らからするとルイは異分子であって、同居していた頃から浮いた存在であったことは容易に想像できる。
それがひょっこりと実家に戻ってきたのだ。何かわけがあるはず。母も兄も妹も事情を知りたいに違いない。なのに、なぜかルイが語ろうとすると話題をそらし、それぞれが彼に抱いている思いを勝手にぶちまける。ルイは気圧されるように口を閉ざし、なかなか話を切り出せない。
超一流の演技合戦
(c)Shayne Laverdière, Sons of Manual
転居先の住所も教えない冷たい息子を、それでも「愛している」と抱きしめる母。幼い頃に出て行った兄の記憶がなく、雑誌や新聞の記事を通して兄への憧れを育んでいった妹。自分とは対照的にインテリで洗練された弟に、嫉妬と憎しみをあらわにする兄。
映画はルイと家族たちとの1対1の対話を、クローズアップで映し出す。表情にあふれ出る感情。あふれ出るだけで、互いに交わることはない。だが、ただひとり、この日ルイと初めて会う兄嫁だけが、ルイの眼差しにただならぬものを感じ取り――。
(c)Shayne Laverdière, Sons of Manual
ハイテンションな母にナタリー・バイ、がさつで下品な兄にヴァンサン・カッセル、ルイを慕う妹にレア・セドゥ、社交性に欠ける兄嫁にマリオン・コティヤール、そして寡黙な主人公ルイにギャスパー・ウリエル。超一流のキャストが火花を散らす演技合戦から目が離せない。第69回カンヌ国際映画祭グランプリ受賞。
「たかが世界の終わり」(2016年、カナダ・フランス)
監督:グザヴィエ・ドラン
出演:ギャスパー・ウリエル、ヴァンサン・カッセル、レア・セドゥ、マリオン・コティヤール、ナタリー・バイ
2017年2月11日(土)、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町、YEBISU GARDEN CINEMAほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。