パレスチナ自治区を縦横に横切る壁。イスラエル兵の監視をすり抜け、青年オマール(アダム・バクリ)は高さ8メートルの壁をよじ登り、向こう側に住む友人に会いに行く──。ハニ・アブ・アサド監督の新作「オマールの壁」は、壁で分断されるパレスチナの若者たちの友情、裏切り、葛藤を描く。
オマールが最後に選んだ手段とは
ヨルダン川西岸地区に住むオマールは、パン屋で働いている。幼なじみのタレク(エヤド・ホーラーニ)、アムジャド(サメール・ビシャラット)に会うため、命がけで壁をよじ登る日々。タレクの妹ナディア(リーム・リューバニ)と交際し、結婚を夢も見ていた。
自由を求めるオマールたちは、武装組織から銃を手に入れ、イスラエル軍を襲撃する。しかし、イスラエル秘密警察はオマールを逮捕。「恋人も地獄行きになる」と脅しをかける。スパイになるよう強要されたオマールは、承諾したふりをして釈放される。反撃を狙う3人だったが、秘密警察はさらに上を行く「情報戦」を仕掛けてくる。
パレスチナの壁と分断、イスラエルによる支配。浮かび上がるのは、人間の尊厳、友情、希望を踏みにじる占領政策の狡猾さだ。秘密警察はオマールたちの個人情報を把握し、時にアメをちらつかせながら、仲間同士を対立させる。暴力と情報操作でじわじわと精神と肉体を支配し、骨抜きにする。
監督は言う。「作品の主題は信頼だ。人間関係でいかに信頼が重要で、かつ不安定なものか。信頼は愛と友情のかなめ。非常に強いものだが、もろくもあり、幻覚のようでもある」
壁で分断され、傷つけられた若者たち。自分を取り戻すため、オマールが最後に選んだ手段に、胸ふさがれる。
「オマールの壁」(2013年、パレスチナ)
監督:監督:ハニ・アブ・アサド
出演:アダム・バクリ、ワリード・ズエイター、リーム・リューバニ、サメール・ビシャラット、エヤド・ホーラーニ
2016年4月16日(土)、角川シネマ新宿、渋谷アップリンクほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。