1920年代のベルリンを舞台に、様々な人間ドラマが交差する豪華ホテルの一夜を描いたミュージカル『グランドホテル』。1989年にミスター・ブロードウェイと呼ばれるトミー・チューンの演出振付で初演され大ヒットした伝説の作品が、新たな演出版でよみがえります。
本作は、ウィーン生まれの女性作家ヴィッキー・バウムが1929年に執筆した「ホテルの人びと」を原作にしています。作家自身の手によって小説を元にベルリンで舞台化され、ブロードウェイでも上演された後、1932年にグレタ・ガルボ、ジョン・バリモア他オールスターキャストにより映画化され、アカデミー賞を受賞しました。このモノクロ時代の映画をトミー・チューンがテレビの深夜放送で見て、すぐさまミュージカル化を思いついたといわれています。
映画や演劇や小説における表現方法に"グランドホテル方式"というのがあります。ホテルのような一つの大きな場所に様々な人々が集まり、いくつもの物語が平行して描かれる方式のことで、群像劇、群集劇とも言われます。これは、この作品の1932年の映画版が由来となっています。
トミー・チューン演出版を超えることができるか
日本において本作は、1991年にブロードウェイのオリジナルキャストを含むメンバーによって行われた来日公演と、1993年に宝塚歌劇団月組トップスター涼風真世の退団公演として上演されたものがあります。いずれもトミー・チューンの演出・振付によるもので、1920年代の愛と喧騒の人間模様が見事なダンスミュージカルで表現されていました。その後、日本人キャストによって別演出の上演がされたこともありますが、残念ながらオリジナル演出にははるかに及ばない出来でした。
今回演出を担当するのは、ロンドンの気鋭演出家トム・サザーランド。2013年ロンドンで『タイタニック』の新演出版を担当し、その年最もチケットの取れないミュージカルとして話題になりました。昨年の日本人キャストによる上演も大絶賛を浴び、連日満員を記録したのも記憶に新しいところです。ミスター・ブロードウェイと呼ばれたトミー・チューンによるオリジナル演出版を超える新たな作品誕生に期待をかけたいと思います。
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