2015/5/31

映画「涙するまで、生きる」/殺し合いの連鎖を断ち切るには、自分が死刑になるしかない

1954年、アルジェリア。元フランス軍将校でいまは小学校教師をしているダリュのもとに、顔見知りの憲兵がアラブ人の男を連行してくる。殺人容疑で逮捕した男を裁判にかけるため、山向こうの町まで護送してほしいとの依頼だった。しかし、裁判をすれば男が死刑になることは目に見えている。その片棒を担ぐような真似はしたくない。ダリュは、男の縄をほどき、逃亡するよう促すが――。

やむを得ない理由で人を殺し、死を覚悟したアラブ人の男と、彼の命を救いたいと願う主人公。ともに旅をする中で、二人は次第に心を寄せ合い、強い絆で結ばれていく。

生か死か――。

物語の背景にあるのは、アルジェリア戦争だ。アルジェリアの領有権を譲らないフランスと、独立を求めるアルジェリア。両国の争いはアルジェリアで生まれ育ったダリュの立場を複雑なものにしている。アラブ人でもなく、フランス人にもなりきれないダリュは、この映画の原作者であるアルベール・カミュの分身と言ってよいだろう。

道中、ゲリラ軍に捕らえられたダリュたちは、フランス軍に救出されるが、フランス軍は投降したゲリラ軍を射殺してしまう。フランス軍の非道を強く非難するダリュ。かつて忠誠を尽くした軍隊が、人殺しの集団に成り下がっている現実に、ダリュはがく然とする。

ダリュが護送するアラブ人は、自ら死刑になることを望んでいる。逃げたとしても必ず復讐されるし、自分が殺されれば、復讐が繰り返される。殺し合いの連鎖を断ち切るには、自分が死刑になるしかない。ダリュは死を観念している男に、男がまだ知らない人生の喜びを教え、生死の選択肢を示す。生か死か。帰路に立たされた男が、ついに意を決するラストが感動的だ。

ダリュ役を演じるのは、「イースタン・プロミス」(07)の名優ヴィゴ・モーテンセン。過酷な状況下で、生きる意味を求めて決然と行動する主人公を、見事に演じ切っている。


「涙するまで、生きる」(2014年、フランス)

監督:ダヴィド・オールホッフェン
出演:ヴィゴ・モーテンセン、レダ・カテブ
2015年5月30日、イメージフォーラムほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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