2015/5/29

映画「追憶と、踊りながら」ホン・カウ監督に聞く/高名な俳優から演技の経験がない俳優まで、でこぼこのアンサンブルだった

ロンドンの介護ホームで暮らす中国人女性ジュン。英語を話せない彼女にとって唯一の楽しみは、面会に訪れる息子のカイと過ごす時間だけだった。ところが、ある日、カイは交通事故で死んでしまう。悲しみにくれるジュンの前に、カイの同居人だったリチャードが現れる。ジュンはリチャードをカイの友人だと信じているが、実はカイの恋人。カイは同性愛者だったのだ。リチャードは真実を隠したまま、ジュンの世話をしようとするが――。

愛する者を失った中国人女性と英国人青年との心の触れ合いを繊細に描いた「追憶と、踊りながら」。今回長編デビューしたカンボジア出身のホン・カウ監督は「他人の私生活をのぞき見るような、自然な映像を撮りたかった」と語った。

英語が話せない母親、真実を言えない息子

カンボジアで生まれ、29年前にロンドンに移住してきたジュン。いまだ英語が話せず、英国社会にもとけ込めない。一方、息子のカイはすっかり英国社会に馴染んでいるが、自分がゲイだと母親に告白できずにいる――。基本的な物語設定には、ホン・カウ監督自身の母子関係が投影されている。

「確かに個人的な経験を散りばめた作品だ。ジュン同様、母は英語ができないし、僕も自分がゲイであることをなかなか言い出せずにいた。でも、僕はカイと違ってカミングアウトしている。告白前はとても怖くてどきどきしたけれど、いざ真実を告げてみると、母は意外なほどすんなり受け入れてくれた。『あなたは犯罪者でもレイピスト(婦女暴行者)でもないのだから』と言われた時は『そんな連中と比べないでよ』と思ったけどね(笑)」

英語の話せない母親が頼りにしていた一人息子を突然失ってしまう。息子の恋人リチャード、介護ホームでジュンと親しくなった英国人男性アラン、リチャードがジュンとアランの会話のために雇った中国人女性ヴァンらのエピソードが絡まり合って、ストーリーが展開していく。

特に力を入れたのが、リチャードとカイのエピソード。わずか3シーンしかないが、いずれもリアルで自然な演技に引き込まれる。

「たった3シーンで二人の親密さや愛情が伝えられるかどうか心配だった。しかし、あまりシーンを増やすと『(カイが死んでしまって)不在だからこそ、懐かしく思える』という重要なテーマがぼやけてしまう。限られたシーンでカイに焦がれるリチャードの気持ちを表現しなければならなかった」

わざとらしい演出はしたくない。他人の私生活をのぞき見るような、自然な映像を撮りたい。そのためにはディテールを入念に描く必要があった。

「リチャード役のベン・ウィショーは、僕の要求をとてもよく理解してくれた。感心したのは、カイとのベッドシーンでささやくような話し方をしていたことだ。ごく近くに相手がいる時、人は小さな声で話すもの。ベンは自らのセンスで演技に取り入れていた」

ウィショーの好演もあって、撮影は順調に進んだが、編集段階で一つミスが出た。

「映像と音がずれていた。しかし、そのずれがかえって面白いと思った。リチャードの思い出の中で二人は一緒にいるが、現実にカイはいない。そのずれがうまく表現できていると思い、そのまま使った」

リチャードがカイの乳首の毛を抜くシーンは脚本どおり。

「カイ役のアンドリュー・レオンの体毛が薄いので、2テイクしか撮れなかったよ(笑)」

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

[続き]ベテランから新人まで
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