映画「国際市場で逢いましょう」ユン・ジェギュン監督に聞く/韓国現代史の激動乗り越えた「父に捧げたい」
すべて第一候補にしていた俳優。夢のようなキャスト
──監督の前作「TSUNAMI ツナミ」(09)も家族の絆がひとつのモチーフだったが、今回は一人の父親の人生を軸に家族を描いています。なぜ今「父親の物語」なのでしょうか。
これは私の父にささげる映画だ。04年に息子が生まれ、亡くなった父のことをよく思い出すようになった。融通がきかなかったり怒ったり、理解できない部分も多かったが、親になった今はその気持ちが分かる。家族のために自分を犠牲にして苦労した父に「ありがとう」の一言も言えなかったのが心残りで、いつか父のための映画を作りたいと思っていた。主人公のドクス、ヨンジャは私の両親の名前だ。
──ドクスは「生き残るための3つの取引」、「ダンシング・クイーン」などで演技に定評のあるファン・ジョンミンが演じています。ドクスの妻ヨンジャは「ハーモニー 心をつなぐ歌」のキム・ユンジン、主人公の親友役はオ・ダルス、主人公の父親役はチョン・ジニョン。演技派俳優がずらりと顔をそろえ見応えは十分ですね。
すべて第一候補にしていた俳優。夢のようなキャストだ。ファン・ジョンミンは私が「ダンシング・クイーン」の製作者だった縁で依頼した。電話をすると、まだ脚本も読んでいない段階で引き受けてくれた。キム・ユンジンとも「ハーモニー」の製作をした縁があった。主人公の親友役は最初からオ・ダルスを念頭に置いていた。
──韓国では昨年12月に公開され、人口約5000万人の国で約1425万人を動員するメガヒットとなりました。ただ公開直後から予期せぬ反応もありましたね。「韓国の現代史への批判的視点がまったくない」、「歴史をわい曲している」という批判が噴出。特に左派の論客が「朴正熙(パク・チョンヒ)元大統領(朴槿恵=パク・クネ=大統領の父)の時代を美化している」、「ベトナム戦争時の韓国人兵士による悪行を無視している」などと強く非難しました。反発した保守系の政治家は逆に一層映画を賞賛。映画が政治的闘争の場に引っ張り出された感があったと思うのですが。
政治的解釈を避けるため、意図的に政治的表現を排除したが、かえって論争の種となってしまった。意図と解釈が一致しないことも、映画というメディアの特性なのだろう。ただ、作っているのは政治家ではなく芸術家。この作品はあくまでも私の個人史から始まったものだ。映画は映画として見てほしい。
国民はむしろ賢明だ。「左派の映画」と言われた「弁護人」(13、ヤン・ウソク監督。故・盧武鉉=ノ・ムヒョン=大統領の弁護士時代のエピソードをもとにした映画)も約1137万人を動員した。かなりの数の人が「弁護人」と「国際市場に逢いましょう」の両方を見たと考えていいだろう。そして映画そのものに感動している。多くの人は左右どちらにも傾かないバランス感覚を持っていると思う。
──日本植民地からの解放、朝鮮戦争と南北分断、独裁政権と民主化、そして急速な経済発展。韓国の現代史には、激動という単語がふさわしい。表現の自由と戦ってきた韓国の映画人が現代史を描くとき、権力への批判的視点は常に重要なテーマでした。しかし「国際市場で逢いましょう」は徹頭徹尾個人の視点で描かれています。
歴史の大きな流れの中で、個人が何を感じ、どう行動してきたのかに思いをはせる映画が韓国で生まれ、多くの人に見られたことは何を意味するのか。「国際市場で逢いましょう」は韓国映画史の転換点となるかもしれない。
日本も韓国も豊かになったが、豊かさは天から降ってきたものではない。父や祖父の世代の人々の汗と涙の上にあることを、若い人たちに伝えたい。韓国の観客の感想を聞くと、年配の人は苦難の時代を思い出して癒やされ、若者は先人の苦労を知って感謝したという。日本でもこの作品が世代間を橋渡すきっかけになればと願っている。
監督:ユン・ジェギュン
出演:ファン・ジョンミン、キム・ユンジン、 オ・ダルス、チョン・ジニョン、チャン・ヨンナム、ラ・ミラン、キム・スルギ、ユンホ(東方神起)
2015年5月16日(土) ヒューマントラストシネマ有楽町、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。