2015/4/10

映画「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」/かつてヒーローだった男にふりかかる摩訶不思議なトラブル

 かつてヒーロー映画「バードマン」の主役として一世を風靡したが、今や誰一人振り向く者がいなくなった往年の大スター、リーガン。起死回生を期して、ブロードウェイの舞台に立つことを決意する。脚色、演出、主演の3役を一人でこなし、颯爽と返り咲く......はずだったが、プレビュー(試演)前日、共演者がけがで降板。急きょ代役を務めた俳優もスタンドプレーで芝居を台なしにしてしまう。その後も次々とアクシデントやトラブルに見舞われるリーガン。そして、事態は思いもよらぬ局面へと進んでいく――。

仕事が不振なだけではない。夫婦関係はとうに破綻(たん)し、娘のサムは薬物中毒。リーガンは公私ともにスランプ状態にある。公演を成功させることで、俳優としてカムバックするとともに、妻や娘との関係も修復したい。リーガンの願いだった。

だが、リーガンにとって舞台劇は初挑戦。勝算があるわけではない。しかも上演するのは米国を代表する作家の一人であるレイモンド・カーバー原作のシリアスな作品。うまくいけば「バードマン」のイメージを払拭できるが、リスクも大きい。

魔術のようなカメラワーク

そんなリーガンの前に"バードマン"が現われ、「こんな芝居はやめちまえ」とけしかける。この"バードマン"、実在するわけではない。リーガンの心の中にすみつくもう一つの人格が、"バードマン"の姿で飛び出してくるのだ。リーガンだけに見える心の中の別の自分。とうに縁が切れたはずの"役"が、いまだにリーガンを支配している。しかし、"バードマン"の呪縛を解かない限り、新たなスタートは切れない。葛藤しながらも、リーガンは上演に向けて進み続ける。失った栄光を取り戻し、再び成功の美酒を味わうために――。

リーガンに扮したマーケル・キートンの演技が光る。ティム・バートン監督の「バットマン」(89)、「バットマン リターンズ」(92)でスポットライトを浴びた後、低迷したキートン。リーガンの人生を自らの人生に重ね合わせての熱演だったに違いない。

大本命だったキートンの主演男優賞は逃したが、アカデミー賞では、作品賞、監督賞、脚本賞、撮影賞の4冠に輝いた本作。特に注目したいのは、「セロ・グラビティ」(13)に続く2年連続受賞となったエマニュエル・ルベツキの撮影だ。オープニングから終盤近くまで、ワンカットで撮ったように見えるカメラワークは魔術のよう。撮影を可能にさせたアレハンドロ・G・イニャリトゥ監督の演出力もすごい。


「バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)」(2014年、米国)

監督:アレハンドロ・G・イニャリトゥ
出演:マイケル・キートン、ザック・ガリフィナーキス、エドワード・ノートン、アンドレア・ライズボロー、エイミー・ライア、エマ・ストーン、ナオミ・ワッツ
2015年4月10日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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