2015/4/ 3

映画「やさしい女 デジタル・リマスター版」/一人で部屋にこもり大きな声で歌う姿の、ぞっとするような不気味さ

質屋を営む男が、若い女の客に恋をする。二人は交際するようになり、男は結婚を切り出す。女は乗り気ではなかったが、男が押し切る形で結婚する。しかし、ほどなく二人の間に亀裂が生じ、女は精神に変調をきたす。そして悲劇が起こる――。

男の視点からのみ描かれる

女は結婚を望むもの。結婚したら将来のために倹約すること。男の通念や常識が、若い女には息苦しい。そんな窮屈な生活を強いる男への復讐だろうか。女は別の男と密会し、寝ている夫に銃口を向ける。男は嫉妬と恐怖に襲われる。だが、男には正面切って女と向き合う勇気がない。

やがて女は病を患い、その行動は日増しに狂気の度を増していく。一人で部屋にこもり大きな声で歌う姿の、ぞっとするような不気味さ。結婚式の後の初夜、いそいそとシャワーを浴び、小躍(おど)りしながらベッドに飛び込んで行った、あの溌剌(はつらつ)たる娘は一瞬の幻だったか。

女は男を本当に撃ち殺すつもりだったのか。密会した男とは肉体関係があったのか。謎は謎のまま、最後まで解かれることはない。男の視点からのみ描かれているので、男の目がとらえた女の姿や行動だけが、この女のすべてなのだ。目に見えるものが世界のすべて。見えないものは映さない。説明しない。ロベール・ブレッソン監督の即物的スタイルは、初のカラー作品でも変わらない。

プロの俳優を使わない原則も守られている。ただし、当時モデルだったドミニク・サンダは、「やさしい女」への出演をきっかけに女優に転身。ベルトルッチの「暗殺の森」(70)やデ・シーカの「悲しみの青春」(71)で、世界的に知られるようになった。

優美と残酷が同居する容姿。大きく見開かれながら何も語ろうとしないミステリアスな瞳。サンダの魅力が存分に味わえる作品でもある。


「やさしい女 デジタル・リマスター版」(69年、仏)

監督:ロベール・ブレッソン
出演:ドミニク・サンダ、ギイ・フランジャン、ジャン・ロブレ
2015年4月4日(土)、新宿武蔵野館ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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