2015/3/27

映画「神々のたそがれ」/いつ来るかわからない結末を待ちながら、悪夢のような光景に目を凝らし続けるほかない

中世ヨーロッパを彷彿させる世界。画面に説明は出ないが、地球外の惑星に存在する都市が舞台であるらしい。地球から派遣された主人公はこの都市で特権的な地位にあるが、外見は単なる騎士のようである。

街は不衛生きまわりない。モノクロ画面のせいもあり、汚泥と糞便との区別もつかない。窓から尻を出して排泄(せつ)する者あり、下からその尻をつつくものあり。下品でおぞましい光景が次々と現れる。

恐怖政治が行われており、知識人が標的となっている。首を板に挟まれ労役に服している者がいるかと思えば、突然とらわれ死刑に処せられる者がいる。人糞のあふれる便所に頭から沈めるという、何ともおぞましい処刑法だ。首吊り死体も多数。自殺なのか刑死なのかは分からない。

裸の女。犯す男。規律も治安も存在しない街。カメラはこの街に生息するさまざまな人物に寄り添い、細かな動きや表情をくまなく写し取っていく。だが、彼らが何者なのか。どんな立場にあるのか。説明は一切ない。

不衛生、無秩序、暴力、猥褻。明確なストーリーは示されないまま、混沌とした描写が延々と続く。個々のショットを木にたとえるなら、全体としてどんな森が形成されているのか、見当もつかない。だからといって、退屈さとは無縁だ。

全編3時間。映像の密度は一瞬たりとも薄まることはない。見る者は、いつ訪れるとも知れない結末を待ちながら、悪夢のような光景にじっと目を凝らし続けるほかないだろう。やがて、クライマックスが訪れる。動から静へ、黒から白へ。鮮やかな転換で締めくくられるエンディングの、まさに神々しいまでの美しさに息を呑む。

監督は「フルスタリョフ、車を!」(98)が注目されたロシアの鬼才、アレクセイ・ゲルマン。タルコフスキー監督「ストーカー」(79)の原作者ストルガツキー兄弟によるSF小説「神様はつらい」を原作に、構想35年、製作期間15年。完成を目前に逝ったゲルマン監督の、重厚にして崇高なる遺作である。


「神々のたそがれ」(2013年、ロシア)

監督:アレクセイ・ゲルマン
出演:レオニード・ヤルモルニク、アレクサンドル・チュトゥコ、ユーリー・アレクセーヴィチ・ツリーロ
2015年3月21日(土)、渋谷ユーロスペースほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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