「二十四時間の情事」(59)や「去年マリエンバートで」(61)など、前衛的作品で映画界に衝撃を与え、実験的精神あふれる作品を撮り続けたフランス映画界の重鎮、アラン・レネ。昨年91年の生涯を閉じた巨匠の遺作「愛して飲んで歌って」もまた、実験性に満ちた作品に仕上がっている。
伝説的プレイボーイのジョルジュに、人妻3人──カトリーヌ、モニカ、タマラが心をざわめかす。きっかけは「ジョルジュが末期がんに冒されている」との知らせだった。そもそも、カトリーヌはジョルジュの元恋人。モニカは元妻。過去に愛し合った男が余命いくばくもないとなれば、平静でいられるわけがない。一方、タマラは夫の浮気を見て見ぬふりの屈辱の日々を送っている。そんな彼女の心の隙間に、ジョルジュはするりと入り込んできた。
女性3人ともパートナーがいる。その関係を壊すつもりはない。何しろジョルジュはもうすぐ死んでしまうのだから。要は最後の日々を充実させるために力を合わせることだ。ところが、ジョルジュのある提案が、3人の女たちに動揺を与える――。
意表を突くラストに呆然
サイレント映画ふうの黒地に白の字幕。ペラペラの書き割り。いかにも芝居然とした演技。舞台となる英国ヨークシャーの美しい風景。それらを組み合わせた融通無碍(ゆうずうむげ)なスタイルで、中年男女の恋の駆け引きをコミカルに描く。ただし単純な恋愛コメディーではない。意表を突くラストでは、一筋縄では行かない男女関係の怖さを突きつけられ、しばし呆然としてしまった。
面白いのは主役のジョルジュが画面には一度も登場しないことだ。不在の人物に周囲の人々が振り回される構造で、ベルリン国際映画祭で通常なら革新的な若手に与えられるアルフレッド・バウアー賞に輝いた。最後まで斬新な表現を追い求めたレネにふさわしい受賞だった。
「愛して飲んで歌って」(2014年、フランス)
監督:アラン・レネ
出演:サビーヌ・アゼマ、イポリット・ジラルド、カロリーヌ・シオル、ミシェル・ヴュイエルモーズ、サンドリーヌ・キベルラン、アンドレ・デュソリエ
2015年2月14日(土)、岩波ホールほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
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