2014/11/13

映画「紙の月」/真面目な銀行員のタガが外れ、女としての生命力を取り戻す姿は圧巻

銀行勤めの平凡な主婦が起こした巨額横領事件。「紙の月」は角田光代の同名小説を「桐島、部活やめるってよ」(12)の吉田大八監督が映画化した。先月の東京国際映画祭のコンペティション部門に日本映画で唯一出品され、最優秀女優賞と観客賞を獲得した。

主人公の梨花はミッション系の中学校に通っていた。学校ではキリスト教の精神に基づき、貧しい国の子供に寄付している。梨花の道徳心や倫理観はこのころ植え付けられた。長じた後の考え方にも大きな影響を及ぼすことになる。

時は流れて1994年。夫(田辺誠一)と暮らす梨花(宮沢りえ)は、銀行の派遣社員として外回りの毎日を送っていた。細かな気配り、丁寧な仕事で周りの評価も高い。しかし、自分に関心がない夫に空虚感を覚えていた。そんな時、裕福な顧客からセクハラを受けそうになり、その孫の大学生・光太(池松壮亮)に助けられる──。

銀行では感情を殺し、横領した金で男と豪遊

宮沢を中心に豪華キャストで見せる作品だ。年齢を重ねてはかなさをたたえた宮沢は、若い男にはまり犯罪に手を染める女を好演する。その原点は中学時代。慈善の独善的な解釈だった。「光太を助ける」ことを理由に、真面目な銀行員のタガが外れていく。

一見誠実そうだが、裏表の顔を使い分ける梨花。他人の言葉をそっくり拝借し、自分のものにするしたたかさ。初めは顔色の悪い梨花が、若い男と逢瀬を重ね、あでやかに変わっていく。女としての生命力を取り戻す姿は圧巻だ。

原作には登場しないオリジナル・キャストも作品に深みを与える。窓口係の相川(大島優子)。若くかわいく奔放で、梨花を言葉で挑発し、禁断の行動に走らせる。逆にベテラン行員の隅(小林聡美)は、不正を察知して調べ始める。小林の冷静な演技が光る。

若い男に貢ぐことで、空っぽの心を満たす女。一歩誤れば下世話な三面記事になりかねないが、吉田監督は梨花の内面をじっくり掘り下げる。銀行では感情を殺し、横領した金で男と豪遊する。静と動を巧みに使い分け、緊張感と疾走感を出している。俳優たちの好演も手伝い、見ごたえ十分な仕上りとなった。


「紙の月」(2014年、日本)

監督:吉田大八
出演:宮沢りえ、池松壮亮、大島優子、田辺誠一、近藤芳正
2014年11月15日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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