映画「ジゴロ・イン・ニューヨーク」/ウディ・アレン"ジゴロ業"始めました 恋の決着のつけ方は粋の一言
祖父の代から続いてきたニューヨーク・ブルックリンの古本屋をつぶしてしまった3代目店主のマレー(ウディ・アレン)。時代の波とはいえ、妻と4人の子どもを抱えた身に失業はこたえる。次の仕事のあてもなく無聊(ぶりょう)をかこっていたマレーに希望の光を投げかけたのは、かかりつけの女医パーカー(シャロン・ストーン)の一言だった。
「レズ友達とのセックスに男を一人交えて"3P"をしてみたいんだけど」。マレーは「うってつけの男がいる」と即答。ついでに高額な料金をふっかけるが、裕福なパーカーには、はした金である。かくして商談成立。晴れてジゴロ・ビジネスがスタートする。
マレーがジゴロ役として白羽の矢を立てたのは、古くからの親友で、バイト暮らしのフィオラヴァンテ(ジョン・タトゥーロ)。寝耳に水の話に驚き、躊躇するフィオラヴァンテだったが、マレーは調子よくおだててその気にさせてしまう。
「まずはお試しに」と1対1のプレーに挑むが、ぎこちないムードも最初の数分だけ。フィオラヴァンテはたちまちパーカーをとりこにし、多額のチップもせしめる。順調な出足に大喜びのマレーは次々と顧客を開拓。思わぬ"才能"に目覚めたフィオラヴァンテも精力的に"仕事"をこなしていく。
映画史に残るラブシーン
「アメリカン・ジゴロ」(80)のリチャード・ギアほどのイケメンではない。だが、なぜか女を惹きつけるムードを持っている。ジョン・タトゥーロのイメージは、まさにフィオラヴァンテの役柄そのものだ。
口数少なく、聞き役に徹し、相手の要求には全身全霊のサービスで応え、100パーセントの満足を与える。当然相手はゾッコン。しかし、自分が相手に惚れることは決してない。これぞジゴロの鑑(かがみ)。タトゥーロ自身が脚本と監督も手がけているだけに、役作りも万全である。
そんな凄腕のジゴロが、なんとおきて破りの恋に落ちてしまう。相手は、夫と死別して以来、男性とは一度も接触していない未亡人のアヴィガル(ヴァネッサ・パラディ)。よりによって、恋を禁じられた敬けんなユダヤ教徒だった。
フィオラヴァンテはジゴロの素性を隠し、マッサージ師としてアヴィガルに接する。ゆくゆくはほかの女性同様にという目論見だったろう。ところが、アヴィガルと出会った瞬間、それまでの"顧客"たちとのあまりの違いに、フィオラヴァンテは狼狽する。
乙女のように恥じらいながら肌着を脱ぎ、寝台に横たわるアヴィガル。その背中にそっと触れるフィオラヴァンテの手。ぴくりと反応する肌に、ローションを塗り広げていく。すると、感極まったアヴィガルが涙を流す。男に肌を触れられるのは久々だったのだ。思いがけないアヴィガルの反応に、フィオラヴァンテの心が激しく揺れる――。静ひつで官能的。白眉と言える名場面である。
その後、デートを重ねるようになる二人。公園の木陰で初めてキスを交わす場面がまた圧巻だ。着想、映像、そしてカット割りが鮮烈。映画史に残るラブシーンと断言しておこう。
フィオラヴァンテとの出会いをきっかけに、生気と色気を取り戻していくアヴィガル。鮮やかな変身を見せるヴァネッサ・パラディの演技も出色である。"純情可憐"な未亡人。おどおどした表情の下から覗く、女のうずき、渇き。生々しさを童顔と"すきっ歯"がやわらげ、独特の魅力を生み出している。
2人の恋の決着のつけ方、エンディングのまとめ方は、"粋"の一語に尽きる。名優タトゥーロが名監督でもあることを、改めて認識させられる一作だ。
監督:ジョン・タトゥーロ
出演:ジョン・タトゥーロ、ウディ・アレン、ヴァネッサ・パラディ、シャロン・ストーン
2014年7月11日(金)、TOHOシネマズ シャンテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。