2014/6/27

映画「her 世界でひとつの彼女」/生身の女性には望めない完ぺきなコミュニケーション もはや夢ではないAIと人間の恋

結婚生活が破綻し、妻と別居中の男、セオドア(ホアキン・フェニックス)。独り身の寂しさを紛らわすため、パソコンにAI(人工知能)型OS(オペレーティング・システム)をインストールする。すると画面の奥から、明るく若々しい女性の声が聞こえてきた。打てば響く知性とユーモア、セクシーさを併せ持つ声の主は"サマンサ"(スカーレット・ヨハンソン)。セオドアはたちまち彼女に魅了される。

AIのくせに、いやAIだからこそと言うべきだろう。サマンサはセオドアの気持ちを瞬時に理解し、セオドアが望むような言葉を投げかけてくる。彼女の桁外れな情報処理能力に限界はなく、知識だけではなく、人間的な感情まで学習してしまう。

生身の女性相手には望めない完ぺきなコミュニケーション。セオドアは心からの満足感にひたる。サマンサもセオドアとの会話に喜びを覚える。そんな"二人"の間にやがて恋愛感情が芽生える。セオドアはサマンサを携帯端末にインストールし、常に行動をともにするようになる。

悩みやトラブルは人間同士と変わらない

ひと昔前にこういう映画を見たとしたら、セオドアの姿は常軌を逸したものに映っただろう。しかし、いまやインターネット上には、バーチャルな恋愛を楽しむためのアプリがあふれ返っている。"サマンサ"の原型のようなアプリも登場している。だからセオドアの行動にまったく違和感はない。

「2001年宇宙の旅」(68)に登場した"意思を持つコンピューター"は、まさに空想科学の産物でしかなかったが、"感情を持つAI"サマンサは、はるかに現実性を帯びたものとなっている。ごく近い未来に実現するのでは、と思わせるリアリティーが感じられるのだ。

セオドアの妻キャサリン(ルーニー・マーラ)に対するサマンサの嫉妬、サマンサの失踪と浮気......。人間とAIのカップルであっても、悩みやトラブルは人間同士のカップルと変わらないのが面白い。AIという抽象的な存在を設定することで、究極のプラトニックラブを提示し、恋愛の本質とは何かを考えさせる作品となっている。


「her 世界でひとつの彼女」(2013年、米国)

監督:スパイク・ジョーンズ
出演:ホアキン・フェニックス、エイミー・アダムス、ルーニー・マーラ、オリビア・ワイルド、スカーレット・ヨハンソン
2014年6月28日(土)、新宿ピカデリーほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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