旧約聖書の「創世記」に記された「ノアの箱舟」。諸説ある伝説は書物、絵本、映像作品などさまざまな形で語り継がれてきた。神の視点で描いた「天地創造」(66)、伝説をパロディー化した「エバン・オールマイティ」(07)など、時代に合った表現で人々に影響を与え続けてきた。
今回の「ノア 約束の舟」は基本に立ち返り、箱舟を造ったノア(ラッセル・クロウ)にスポットをあて、箱舟の全貌を最新技術、壮大なスケールで描いた。監督、製作、共同脚本は「ブラックスワン」(10)のダーレン・アロノフスキーだ。
今まで誰も見たことのない「ノアの箱舟」
旧約聖書にはノアについて詳細な記述がない。神の啓示を受けて箱舟を造り、妻と息子3人、その妻たちと動物を舟に乗せた。神が語り部となった「天地創造」と異なり、今回は神の姿はない。ノアが見た「大勢の人が洪水に飲まれて死ぬ」、「動物が箱舟に乗り込んだ」予知夢を神の啓示と解釈。祖父メトシェラ(アンソニー・ホプキンス)の指示を仰ぎ、箱舟計画を実行に移す。石の巨人「ウォッチャー(番人)」が協力者となる。
さまざまな新解釈を投入した物語には、養女イラ(エマ・ワトソン)が登場する。死にかけていたところをノアが助けたのだ。ノアの長男セム(ダグラス・ブース)と夫婦になったイラは妊娠する。独身の次男ハム(ローガン・ラーマン)も妻を欲しがるがノアに反対され、恨みを抱き暴走してしまう。また、ノアの敵としてカイン(レイ・ウィンストン)が登場する。子供だったノアの目の前で父を殺した宿敵カインは、箱舟を奪おうと攻め込み、ウォッチャーと死闘を繰り広げる。
詳細な情報のない伝説の映像化にあたり、監督は重要なエピソードを押さえながら、大胆に新解釈を加えた。今まで誰も見たことのない「ノアの箱舟」だ。種の保存を目的とした壮大な計画を実行する男の使命と葛藤。支える妻マーナ(ジェニファー・コネリー)と家族。しかし、権力、支配欲の塊となったカイン一派とウォッチャーの戦いは、ファンタジー色が強まり、本来の趣旨から離れた感がある。
知っているようで知らない「ノアの箱舟」伝説。独創的な世界観、映像表現により壮大なスケールで描き、監督が示したビジョンに圧倒される。宗教が絡むため各国で賛否が巻き起こっているが、ハリウッドだからこそできた超大作といえる。次々と選択を迫られるノアに、魂を注いだクロウの鬼気迫る演技も注目だ。
「ノア 約束の舟」(2014年、米国)
監督:ダーレン・アロノフスキー
出演:ラッセル・クロウ、ジェニファー・コネリー、エマ・ワトソン、ローガン・ラーマン、アンソニー・ホプキンス
2014年6月13日(金)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。