鹿児島県。大型スーパー進出で客が減り、赤字に苦しむ和菓子店「とら屋」。父・眞平(西田聖志郎)は浮気が原因で母・恵子(市毛良枝)と離婚したが、今も一緒に暮らしている。三姉妹のうち実の娘は三女の栄(徳永えり)だけ。長女・静江(吉田羊)と次女・奈美江(吹石一恵)は恵子の連れ子だった。菓子職人の元夫と実家を継ぐつもりだった長女は離婚して出戻り、三女は婚約破棄。今は上司と不倫中だ。
そこへ奈美江まで帰ってきた。東京で税理士事務所を営む夫・平川徹(津田寛治)と離婚調停中で、訳あり家族が全員集合。嫁姑問題で三行半を突き付けた奈美江は、実は年下カメラマンと恋を育んでいた。実家の緊急課題は店の再建。地元の夏祭り「六月燈」の夜、新作和菓子を発表して起死回生を図る──。
すべて中途半端、不器用な三女が物語の鍵
監督は佐々部清。「半落ち」(04)など硬派な社会派作品から、「夕凪の街 桜の国」(07)、「ツレがうつになりまして。」(11)など人間ドラマまで作風は幅広い。今回は鹿児島を舞台にしたハートフルコメディー。山田洋次監督「男はつらいよ」を思わせる人情劇だ。
鹿児島の伝統行事「六月燈」、生き生きした鹿児島弁。作家の視線はどこまでも温かい。ばらばらだった家族が店の再生へ一致団結し、さびれる商店街の再生に一肌脱ぐなど、自然に共感できる展開だ。三姉妹にキャンディーズのヒット曲「暑中お見舞い申し上げます」を歌わせたり、人気スターを写真でカメオ出演させたり、遊び心で観客を楽しませる。
物語の中心にいるのは次女の奈美江だが、裏で描かれるのは三女・栄の成長だ。すらりとした美人の姉二人に比べ、背の低い末っ子は劣等感を感じている。上司との不倫にも自己嫌悪が募る。すべて中途半端、不器用な栄が壁を乗り越えることで、家族全体が前に動き出す。「観光映画にしたくなかった」という佐々部監督の言葉通り、キャストの魅力が十分に引き出され、柔軟な演出が光る作品となった。
「六月燈の三姉妹」(2014年、日本)
監督:佐々部清
出演:吹石一恵、徳永えり、吉田羊、津田寛治、西田聖志郎
2014年5月31日(土)、全国公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。