米メリーランド州チェサピーク湾、海辺の町クラリッジ。二人の生物学者がある日、湾の水に高濃度の毒性を感知した。市長は警告を受けるものの、パニックを恐れて無視する。米独立記念日の7月4日。町は祝賀ムードに包まれるが、和やかな風景は一瞬で崩れ去った──。
ありとあらゆる映像と音声で、刻々と広がる恐怖を再現
海辺の町を襲った寄生虫感染パニックを、カメラの主観映像で追った「ザ・ベイ」。大ヒット作「パラノーマル・アクティビティ」シリーズのオーレン・ペリとジェイソン・プラムが製作し、特殊効果は「アベンジャーズ」(12)の視覚効果を手がけた製作会社・ハイドラックスが担当した。
パニック映画で最近流行の主観映像作品。定点カメラと手持ちカメラの「視線」をそのまま使う手法で、際立った目新しさはない。驚くべきは原案、監督が「レインマン」(88)のバリー・レビンソンであることだ。同作で米アカデミー監督賞を獲得し、「バグジー」(91)、「ディスクロージャー」(94)、「スリーパーズ」(96)などドラマ演出で評価が高い。さらに冒険アクションの「ヤング・シャーロック ピラミッドの謎」(85)、SFの「スフィア」(98)など作品のジャンルは幅広い。
物語は感染パニックをドキュメンタリー風に検証する手法で展開する。独立記念日のカーニバルを取材で訪れ、街中の人々が感染する様子を目撃した女性レポーター。海洋学者、テレビクルー、市民らのビデオ、病院の監視カメラ、パトカーの車載カメラ、携帯電話の映像、警察への通報音声など、ありとあらゆる映像と音声がつなぎ合わされ、刻々と広がる恐怖が再現される。
「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(99)に始まった"低予算モキュメンタリーブーム"。作品は続々と生まれたが、質は玉石混交だ。舞台になったチェサピーク湾で育ったレビンソン監督は、水質汚染に警鐘を鳴らすため作ったという。70歳のベテランが撮ったと思えぬ斬新な切り口。はやりのパニック・ホラーとあなどってはいけない。現実を冷静に見ながら、ドキュメンタリー風に恐怖を表現していく。新境地を切り開いた監督の意欲作だ。
「ザ・ベイ」(2012年、米国)
監督:バリー・レビンソン
出演:ナンシー・アルカ、クリストファー・デナム、スティーブン・クンケン、フランク・ディール、ケサー・ドナヒュー
2013年5月31日(土)、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。