ジャン=リュック・ゴダール作品の邦題を引用した日本映画「はなればなれに」。せりふは最小限、音楽は生演奏とラジオのみ。可能な限りワンシーン、ワンカットで撮影された青春群像劇だ。小津安二郎作品を研究してきた下手大輔監督の長編デビュー作。ワルシャワ国際映画祭、東京国際映画祭など、9か国・11の国際映画祭に招待された。
メジャー作品では実現できない自由な発想
関係性のない男女3人が出会い、海辺の別荘で奇妙な共同生活を送る。ドラマとコメディーが同居した風変わりな作品だ。素行が悪く店をクビになったパン焼き職人のクロ(城戸愛莉)。恋人とけんか別れしたカメラマンの英斗(斎藤悠)。主演女優の降板で舞台の上演が危ぶまれる演出家の豪(中泉英雄)。3人のドラマは並行して動き出し、それぞれが壁にぶち当たる。その後、奇妙な偶然で3人は出会い、東京を離れて海辺で共同生活を始める。
女一人に二人の男。三角関係を描いているが、日本のインディーズ映画特有の湿っぽさはない。ひょうひょうとしたリズムとテンポが、独自の時間の流れを作り出し、軽くてドライな味を醸し出す。根源には監督が影響を受けた小津がいるのかもしれない。計算された即興演出は、ゴダールら60年代仏ヌーベルバーグの影響だろう。
街角で演奏中のストリート・ミュージシャンの投げ銭をクロが盗み、新宿の高層ビル街をバンドメンバーに追いかけられる。楽しい描写はルイ・マル監督の「地下鉄のザジ」(60)を思わせ、スラップスティック(ドタバタ)コメディー風だ。ショートコント的なシーンでは言葉に頼らず、起承転結を絵だけで完結させる。4コマ漫画のようにコミカルな演出は、初期の北野武監督作品に通じる。
後半に居場所を失った3人は、閉鎖された海辺の旅館にたどり着く。そこから作品のテーマとなる「精神の自由と解放」が描かれる。東京を離れ、俗世間のしばりから解放され、一定の距離を保ちつつ、3人は時間を浪費する。そこに女子高生のモモ(我妻三輪子)が合流。緩い共同生活は、自分を見つめ直し、互いに向き合う時間に変わっていく。
一見無駄にみえる時間の浪費だが、他人と一緒に過ごしたことで、確実に一歩前進し、少しだけ大人に近付く。クロの行動は幕開けと幕引きで微妙に変化している。他人から見れば些細な進歩だが、本人にとっては大きな一歩だ。
メジャー作品では実現できない自由な発想、過去作品を自分の中に吸収した上でのオマージュ。下手監督独自の作風が心地よい。今後が活躍が楽しみなデビュー作品だ。
「はなればなれに」(2012年、日本)
監督:下手大輔
出演:城戸愛莉、斉藤悠、中泉英雄、松本若菜、NorA
2014年4月26日(土)、渋谷ユーロスペース、名古屋シネマスコーレほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。