2014/4/19

映画「ある過去の行方」/世界の映画賞を席巻したファルハディ監督最新作 緻密に練られた脚本に引き込まれる

前作「別離」(11)で米アカデミー賞外国語映画賞、ベルリン国際映画祭金熊賞(最優秀作品賞)など世界の映画賞を席巻したイランのアスガー・ファルハディ監督。最新作「ある過去の行方」は初めて舞台を海外へ移し、パリを舞台にフランス人俳優で描く人間ドラマだ。

フランス人薬剤師のマリー=アンヌ(ベレニス・ベジョ)と別れて4年。今はテヘランに住むアーマド(アリ・モッサファ)が離婚手続きのためパリへ来る。マリーと彼女の連れ子の娘二人、かつて4人で過ごした家に戻るアーマド。そこでマリーに新しい交際相手サミール(タハール・ラヒム)がいると知る。

しかし、家の中には不穏な空気が漂っている。部屋は散らかり、マリーはサミールの息子のいたずらにいらつき、大声を上げる。上の娘リュシー(ポリーヌ・ビュルレ)は母の交際に反対し、自宅に寄り付かない。気まずさを感じながら、母娘の間を取り持つアーマドだった。

やがてリュシーの口から、家族が隠している秘密が漏れ始める。母の異性関係を受け入れられないリュシー。戸惑いながら離婚手続きに向かうマリーとアーマド。罪悪感を感じながらマリーと会い続けるサミール。それぞれが重い「過去」を背負いつつ、新しい明日を模索するが──。

人々の間にはガラスのようなものがある

緻密に練られた脚本、深層心理を掘り下げる演出。世界的高く評価されるファルハディ監督の手腕は、今回も遺憾なく発揮される。登場人物それぞれが、何らかの秘密を隠している。秘密を小出しに明かすことでサスペンス色がより強まり、観客を引きつける効果となっている。

マリーたちは家族(だった)のはずなのに、もどかしいほどに分かり合えない。ファルハディ監督は、インターネットなどで一見便利になった現代を「つながることが難しい時代」とみる。映画の冒頭、ガラス越しにマリーとアーマドが話すシーンがある。監督は言う。

「二人は互いに話しているのは分かるけれど、意思の疎通が取れていない。何を言いたいのか相手に通じていない。人々の間にはガラスのようなものがあり、分かり合えないまま。現実の人間たちもそうではないか」

物理的に近くなったはずなのに、逆に離れてしまった人間たち。マリーやアーマドの物語は、観客それぞれの今につながるのかもしれない。


「ある過去の行方」(2013年、仏・伊)
監督・脚本:アスガー・ファルハディ
出演:ベレニス・ベジョ、タハール・ラヒム、アリ・モッサファ
2014年4月19日(土)、Bunkamura ル・シネマ、新宿シネマカリテほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトまで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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