2014/3/16

映画「ランナウェイ・ブルース」/人生の負の連鎖から抜け出す難しさ 空想の世界で苦しさを笑い飛ばす兄弟

生まれつき不運な人間は、この世にいるのだろうか──。米西部ネバダ州。ジェリー・リー(スティーブン・ドーフ)とフランク(エミール・ハーシュ)の兄弟は、幼くして両親を失くし孤児になる。子供の時の大けがが原因で、何をやってもうまくいかないジェリー・リー。そんな兄を支えるため、フランクは14歳からハーリー(クリス・クリストファーソン)の中古車店で働き始めた。

薄暗く湿ったモーテルに住み、兄弟は寄り添うように生きていた。ハーリーはフランクに言う。「頭の中に隠れ家を作り、つらくなったらそこへ行け。兄さんにも夢を話してやれ」。絵の得意なフランクがイラストを描き、二人は空想の世界で苦しさを笑い飛ばす。

フランクにはかつて、恋人アニー(ダコタ・ファニング)がいた。しかし偶然、アニーが母に強いられ売春する現場を目撃。ショックを受けてフランクは別れを告げるが、遠くの町へ引っ越したアニーから「今も思っている」と手紙が来ていた。

ネバダの冬は厳しい。凍て付く夜、ジェリー・リーは交通事故で子供を死なせてしまう。絶望して自殺を図るものの、死にきれずに病院へ。フランクは兄を連れ逃亡を決め、ハーリーの店を久しぶりに訪れた。ハーリーは言う。「お前は負け犬じゃない。胸を張って生きていけ」。兄を乗せて車を走らせるフランク。二人の行く先に光は見えるのか──。

自分をクズと決めつけるな

ジェリー・リーとフランクの兄弟を見ていると、人生の負の連鎖から抜け出す難しさを実感する。しかしそれでも、人は生きていかねばならない。どんなに苦しい時も、笑いを見つけることはできる。自尊心を捨てずに生きることはできる。

ショーン・ペン監督作「イントゥ・ザ・ワイルド」(07)のハーシュが、兄思いの繊細な弟を好演している。兄役のドーフは傷つき、うちのめされたやるせなさを的確に表現。"天才子役"からすっかり成長したファニングが苦境にも汚れず、凛とした輝きを見せている。

若い兄弟を見守るハーリー役、クリストファーソンも素晴らしい。世の厳しさを十分知る人生の先輩。二人を甘やかさず、突き放さず、ただ「自分をクズと決めつけるな」と叱咤する。

厳しい現実を淡々と描きながら、一筋の光を浮かび上がらせる作品。アランとガブリエルのポルスキー兄弟、監督デビュー作となる。


「ランナウェイ・ブルース」(2012年、米国)
監督:アラン・ポルスキー、ガブリエル・ポルスキー
出演:エミール・ハーシュ、スティーブン・ドーフ、ダコタ・ファニング、クリス・クリストファーソン、ジョシュア・レオナルド
2014年3月15日、シネマート新宿ほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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