何者かの銃口が、演奏中のピアニストを狙う。「一音でも間違えたらお前を撃つ」。鍵盤を走る指に緊張が走る。犯人の目的は何なのか。演奏しながらどう窮地を脱するのか──。イライジャ・ウッド、ジョン・キューザック主演の「グランドピアノ 狙われた黒鍵」。スペイン出身、作曲家でもあるエウヘニオ・ミラ監督による犯罪サスペンスだ。
コンサートホールという大きな密室
米シカゴ。空港に着いた若き天才ピアニストのトム(ウッド)は不安にかられていた。今は亡き恩師パトリックの追悼コンサートに出席するのだ。不安の原因は難曲の「ラ・シンケッテ」。パトリックの作った曲だったが、トムは5年前に演奏に失敗し、以来極度のステージ恐怖症となっていた。
コンサート会場は観客で埋まり、トムの登場を待っている。恐怖と孤独の中、トムは意を決して舞台へ向かった。用意されたピアノは世界屈指のメーカー、ベーゼンドルファーの「インペリアル」。低音部に9つの黒鍵を足し、音域を広げた特別なピアノだった。
演奏は問題なく始まった。しかし、譜面をめくった瞬間、赤字の殴り書きが目に入る。「一音でも弾き間違えたらお前を殺す」、「助けを呼んだら眉間を撃ち抜く」。同時にライフル銃の照準器から発せられる赤い光線が、こわばるトムの顔に向けられた。
手に汗を握りながら演奏を続け、ピアノは休憩パートに。トムは助けを求めようとするが、犯人に妨害される。舞台に戻るトムだったが、犯人の要求はエスカレート。「曲目を変更し『ラ・シンケッテ』を演奏しろ」。やがてトムは、要求の秘密が「ラ・シンケッテ」とピアノに足された黒鍵にあると気付く──。
演奏中のピアニストが、謎の殺し屋に狙われる。物語の大半はコンサートホール、舞台上、楽屋裏で展開する。演奏が始まり、ピアニストは外部との連絡を絶たれる。舞台上にいる限り、助けを求めることもままならない。いわば「大きな密室」に閉じ込められ、公衆の面前で脅されている状態だ。主人公は曲の流れに乗りながら、脱出するためにもがく。
ほぼ出ずっぱりのウッド。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのイメージを脱し、気弱で神経質な音楽家を好演している。演奏シーンも自然で見ごたえ十分だ。犯人役にはジョン・キューザック。「ペーパーボーイ 真夏の引力」(12)、「フローズン・グラウンド」(13)とあくの強い役が続いているが、今回も正体不明の凶悪犯を手堅く演じる。
全編を彩る重厚な音楽も印象的だが、犯行の理由や結末への流れなど、細部の設定や展開が荒っぽい。着想が独創的なだけに、もう一歩の練りが足りず惜しい。
「グランドピアノ 狙われた黒鍵」(スペイン・米国)
監督:エウヘニオ・ミラ
出演:イライジャ・ウッド、ジョン・キューザック、ケリー・ビシェ、タムシン・エガートン、アレン・リーチ
2014年3月8日(土)、新宿シネマカリテほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。