17年前の冬。徳島県西部の小さな村・祖谷(いや)で、乗用車が谷底に転落し、乗っていた男女が亡くなった。地元に暮らすお爺(田中泯)は、現場で赤ん坊の春菜を拾い上げる。時は流れ、ある夏の日。都会から祖谷に流れ着いた青年・工藤(大西信満)が、渓流で命を絶とうとする。しかし、鹿を撃ったお爺の銃声で、工藤は現実に引き戻される。
春菜(武田梨奈)は18歳になった。山奥からふもとの小さな学校に通い、お爺とひっそり暮らしていた。ところが、村では自然保護団体と建設業者がトンネル工事を巡り対立。団体側にいた工藤は「ここは自分の居場所ではない」と考え、再び山に入る。迷った末にたどり着いた場所は、お爺と春菜の山小屋だった。電気もガスも水道もない生活。二人の姿に心を洗われ、工藤は同じ場所で畑を耕し、自給自足で暮らすと決める──。
徳島県西部の小さな村・祖谷。平家の落人が暮らしたと語り継がれ、"桃源郷"とも呼ばれている。都会から来た工藤は、工事をめぐる対立、山を荒らす害獣駆除、山での農作業の困難など、自然と暮らす厳しさに打ちのめされる。一方、春菜もお爺の健康悪化に伴い、次の決断を迫られる。
主演の武田、今回はアクションを封印
メガホンを取ったのは、アナログ映像集団「ニコニコフィルム」代表の蔦哲一朗。徳島県出身で、かつて甲子園で池田高野球部を日本一に導いた名将、蔦文也監督の孫にあたる。
デジタル撮影全盛の時流に逆行するように、監督のこだわりで35ミリフィルム、シネマスコープで撮影された。2時間49分の大作は、監督と同世代の若者たちの手で作られた。人里離れた山奥で、移り変わる四季を背景に、土地に根を張り生きる人々を克明にフィルムに刻んだ。
主演の武田はアクション女優として「ハイキック・ガール!」(09)に出演。「デッド寿司」(12)、「ヌイグルマーZ」(14)では、コメディー演技にも挑んできた。今回はアクションを封印。水桶を担いで山を登り、畑にまき、雪山をさまよい、山を駆け上がる。アクションで培った身体能力が、山育ちの春菜役に生命を与えた。
人々がそれぞれに自分の居場所を探す物語。一部ファンタジックな描写に分かりづらさも感じるが、監督の壮大なメッセージが伝わる渾身の力作だ。
「祖谷物語 おくのひと」(2013年、日本)
監督:蔦哲一朗
出演:武田梨奈、田中泯、大西信満、石丸佐知、村上仁史
2014年2月15日(土)、新宿K'sシネマほかで公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。