2014/2/15

映画「大統領の執事の涙」/7人の大統領に仕えた黒人執事、真実の物語

南部で奴隷の子として生まれたセシル・ゲインズ(フォレスト・ウィテカー)。農作業をしていた母が白人に犯され、抗議した父はその場で射殺された。セシルは「このままでは自分の命も危ない」と農園から逃亡。放浪の末、レストランに拾われる。ボーイとして頭角を現し、高級ホテルの執事へ出世。そしてある日、ホワイトハウスからスカウトされる――。

1950年代のアイゼンハワーから80年代のレーガンまで、7人の大統領に仕えた黒人執事の実話がベースの「大統領の執事の涙」。過酷な差別社会で居場所を求め、執事という天職に出合ったセシル。白人への恨みを押し殺し、職務に邁進する姿を見ると「それしか生きる道がない」という共感とともに、「なぜ怒りの声を上げないのか」といういら立ちが湧き起こる。

特に黒人に対する白人の非道な仕打ちが描かれる序盤は、セシルの過剰なまでの"白人迎合"に卑屈さすら感じてしまう。しかし、それは迫害されたことがないゆえの無神経な感想かもしれない。逆らえば殺される。究極の恐怖だろう。映画の初めと終わりに映し出される黒人の首吊り死体は、セシルのトラウマを表現したものに違いない。

歴代大統領の演説が流れるラストに、胸が熱くなる

セシルは職務を完璧にこなす男である。「相手の目を見て何を欲しているかを見抜け」。放浪者の自分を拾ってくれた恩人の教えを忠実に守ることで、セシルは顧客の心をつかみ、大統領からも信頼されるようになる。セシルを認めることは、黒人を認めることでもあったろう。公民権運動の高まりとともに、黒人差別は徐々に撤廃され、64年に公民権法が成立する。

セシルの職業を恥じる長男は、黒人の権利を叫び、反政府運動に身を投じる。だが、彼が嫌悪するセシルの仕事が、黒人と白人の間の溝を埋め、ひいては差別撤廃に貢献し得るとは考えようともしない。「世の中をよくするため、父さんは白人に仕えている」。そんなセシルの気持ちは、なかなか長男に届かない。

長男とは断絶。次男はベトナム戦争に志願。妻はアルコール依存症。さまざまな悩みや悲しみが、セシルの心を揺さぶる。やがて一徹だったセシルに変化が訪れる――。

監督は「プレシャス」(09)、「ペーパーボーイ 真夏の引力」(12)のリー・ダニエルズ。セシル役にフォレスト・ウィテカー。ケネディ、ジョンソン、オバマら歴代大統領の演説が流れるラストに、黒人である彼らの思いが集約され、胸を熱くする。


「大統領の執事の涙」(2013年、米国)
監督:リー・ダニエルズ
出演:フォレスト・ウィテカー、オブラ・ウィンフリー、ロビン・ウィリアムズ、ジェームズ・マースデン、リーヴ・シュレイバー、ジョン・キューザック、アラン・リックマン
2014年2月15日(土)、新宿ピカデリーほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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