2014/2/ 7

映画「スノーピアサー」/列車の中で起こる反乱 先頭車両に向け一両ずつ"攻め落として"いく

氷河期を迎えた近未来の地球。人類はほぼ死滅。生存者は、ノンストップで地球を周回し続ける列車"スノーピアサー"の乗客のみ――。奇想天外な設定のもとに展開するSF映画「スノーピアサー」。フランスのコミックを原作に、韓国のポン・ジュノがメガホンを取った注目作だ。

壮大な虚構には違いない。しかし、温暖化対策として使用した冷却剤の効きすぎで、気温が急下降したこと。計画的な食糧配給と粛清により、乗客数が一定に保たれていること。決して荒唐無稽な話ではなく、我が身にも起こり得る。そう思うと、ポン監督の語り口の巧みさもあり、のめり込んで見てしまう。

見通しのきかない緊迫感、急転直下のラスト

凍死していく人々を横目に見ながら、"ノアの方舟"に乗り込んだのであろう最後の人類。だが、運命共同体と呼ぶには無理がある。階級によって車両が振り分けられているからだ。

前方には富裕層、後方には貧困層。窓ひとつない最後尾には、最貧困層の人々が荷物のように詰め込まれている。食糧はプロテインブロックと呼ばれる固形物が配給されるだけ。顔はすすやあかにまみれ、スラム街の住人さながら。人間の尊厳は完全に踏みにじられている。

彼らはそんな悲惨な現状に不満を募らせ、反乱を起こす。目標は先頭車両。たどり着くまでには、一両ずつ順番に攻め落として行かなければならない。車外は超低温のため、屋根を伝って移動するわけにはいかないのだ。

しかし、この構造的な制約が、かえって侵攻シーンをスリリングなものとしている。次の車両への扉を開けた瞬間、目の前に敵はいるのかいないのか。見通しのきかないトンネルを突き進むような緊迫感がある。

線路の形状を利用したアクション演出も素晴らしい。鉄路がU字カーブに差しかかった時点で向き合う前方車両と後方車両。繰り広げられる激しい銃撃戦。本作で最も映画的なシーンの一つだろう。

前進するにつれ、次々に現れる車両の風景も興味深い。多種多様な植物の生い茂る温室、バー、クラブ、プール......。富裕層専用の車両は、まるで高級ホテルか豪華船のよう。小学生の集う教室では、独裁国家ふうの洗脳教育が行われている。現代の社会や政治に対するポン監督の批判的な眼差しを感じずにはいられない。

終盤に明かされる衝撃の事実。そして急転直下のラスト。最後までサスペンスが途切れることなく、娯楽映画の面白さを堪能させてくれる。それだけではない。列車に社会を凝縮し、統治論、革命論、終末論まで放り込んで見せてくれる。「グエムル 漢江の怪物」(06)、「母なる証明」(09)を経て、またひと回り成長を遂げたようだ。


「スノーピアサー」(2013年、韓国・米国・フランス)
監督:ポン・ジュノ
出演:クリス・エバンス、ソン・ガンホ、ティルダ・スウィントン、オクタビア・スペンサー、ジェイミー・ベル、ユエン・ブレムナー、コ・アソン、ジョン・ハート、エド・ハリス
2014年2月7日(金)、TOHOシネマズ六本木ヒルズほかで全国順次公開。作品の詳細は公式サイトで。

記事提供:映画の森

* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。

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