3月発表の米アカデミー賞で、作品賞、監督賞、主演男優・女優、助演男優・女優賞など最多10部門で候補となっている「アメリカン・ハッスル」。今年のオスカー大本命。米連邦捜査局(FBI)が詐欺師と組み、政治家の汚職を摘発する。二転三転の展開が鮮やかな犯罪コメディーだ。
描かれるのはおかしくも哀しい人間の性(さが)
1970年後半、米ニュージャージー州。天才詐欺師のアービン(クリスチャン・ベール)、愛人で相棒のシドニー(エイミー・アダムス)は、FBI捜査官のリッチー(ブラッドリー・クーパー)に捜査への協力を求められる。ターゲットはカジノ利権に群がる地元政治家。リッチーらは偽のアラブ人富豪を仕立て、巧妙なおとり捜査で収賄事件の摘発を狙う──。
1979年、米国を揺るがせた汚職スキャンダル「アブスキャム事件」をもとにした物語。中心となるのは4人。リッチー、アービン、シドニー、アービンの妻のロザリン(ジェニファー・ローレンス)だ。4人が一致団結し、目標へ向かうなら話は早いが、そう簡単にはいかない。嫉妬に愛憎、物欲に猜疑心。個々の欲望が互いの足を引っ張り、おとり捜査は綱渡りで進む。
最大の見どころは、主演4人の人物造形とアンサンブルだろう。ベールは髪の薄い小太り中年男。アダムスは捨て身のたくましき女詐欺師。クーパーはタガの外れた無鉄砲捜査官。ローレンスは大胆でセクシーな人妻。いずれも過去のイメージを捨てた熱演だ。
中でもローレンスが素晴らしい。夫の浮気で傷ついているものの、奔放で大胆な行動で周囲を振り回す。デビッド・O・ラッセル監督の前作「世界にひとつのプレイブック」(12)で見せた妖艶さ、存在感に磨きがかかり、貫禄もついた。まだ23歳。今一番「次」が楽しみな若手女優になった。
犯罪ドラマの体裁をとってはいるが、描かれるのはおかしくも哀しい人間の性(さが)。70年代のファッション、音楽に彩られ、強烈で濃い面々が一か八かの大一番に挑む。かみしめるほど味の出る人間ドラマだ。
「アメリカン・ハッスル」(2013年、米国)
監督:デビッド・O・ラッセル
出演:クリスチャン・ベール、ブラッドリー・クーパー、ジェレミー・レナー、エイミー・アダムス、ジェニファー・ローレンス
2014年1月31日(金)、TOHOシネマズ みゆき座ほかで全国公開。作品の詳細は公式サイトで。
記事提供:映画の森
* 記事内容は公開当時の情報に基づくものです。